山茶花の夢小説
秘密のお茶会   その7

 双児宮の前でカノンさんと別れて、沙織お嬢さんたちのいるアテナ神殿を目指して石段を登り始める。ラダさんは名残惜しそうにしていたけど、時間が押していたのでとっとと上り始める。シュラさんの気遣いのためにも遅れる訳には行かないのよ。

 半分ほども上ったところで、後ろから軽快な足音が追いかけてきたわ。急いでるみたいだったので、脇にどいて先に行かせてあげようとしたのだけど違ったみたい。
「お〜い!サエラさぁ〜ん」
「こんにちわ〜」
 あれ、誰かがあたしの名前を呼んでる。余り長くは待てないけど、少しくらいは待ってあげなくちゃいけないわねぇ。

「サエラさん、足速いよ〜。マジで聖闘士いけるんじゃない?」
「サエラさん、ラダマンティスさんこんにちは〜」
 あら、星矢くんと瞬くん。

 昔沙織お嬢さんの所にいた子達よ、懐かしいわねぇ。着任以来何度か逢ってるのだけど、普段白人種のお兄さんたちに囲まれていると日本人のあなたたちがと〜っても可愛くみえるわ。

「ち…ちょっとラダマンティスさん!跪かないでくださいったら!ぼくはハーデスじゃありませんよぅ」
 瞬くんの悲鳴に慌てて振り返ると、憮然とした表情で立ち上がるラダマンティスさんが目に入った。 
「失礼した。驚かすつもりは無かったのだ。ただ、今でも気を抜くとつい臣下の礼を取ってしまう。…頭ではわかっているのだが・・・」
 ごつい顔を赤らめて可愛い。まぁわからないではないのよね。自分の仕える神様の依り代だった…って言われてもよくわからないけれど、ようは同じ顔してるってことじゃないの。そりゃ間違えるわよねぇ。
「いいんですよ、気にしないで下さい 」
「いや、悪かったアンドロメダ。以後、重々気をつけることにする」
 どこまでも堅苦しいのよねぇ。それこそ「ゴメン」の一言で済む事なのに。
「それで、どこ行くんだ?」
「アテナの私室よ、ラダマンティスさんを医務室で介抱していたの」
 さすがにこれは苦しかったか…星矢君の目が胡散臭そうに光る。
「まぁ、いいじゃない。星矢、僕達もアテナの私室に用があるんだよね」
「あぁ、そうだった。んじゃ、急ぐから」
 何かを悟ってくれたらしい瞬君のとりなしで時間が押しているのに気が付いたらしい星矢君たちは、慌てて片手を挙げて会釈しながら走っていった。

「サエラさ〜ん、さっき双児宮のとこで黒い髪のサガが宮に入っていくのを見たけど、もし髪の色が黒いサガに逢ったらとりあえず逃げてね〜」
「あいつはこえ〜から、絶対に逃げなきゃ駄目だぜ〜!テイソウノキキなんだぜ!じゃ〜ね〜」
 
 て…貞操の危機って星矢くん、意味わかっていってんのかしら。でも、黒い髪のサガさんって何?あの人の髪の毛は青っぽい紫だったはず何だけど…。

「双児宮にはカノンがいる。何もなければよいが」
 今にも来た道を駆け下りていきそうなラダさんに無理やり先を促す。大丈夫!喩え髪の色が黒かろうが、紫だろうが、サガさんがカノンさんに酷いことするわけないもの。それより、約束の時間が迫ってきてるのよ。なんだったら、ラダさん独りで行ってくれていいわよ。ここまできたら、あなたが冥闘士だからって咎める人もいないでしょうし、あたしは大丈夫。
「それはかたじけないが…」
 いいからいいから、行っていいわよ。男同士の約束でしょう。折角仲を取り持ってくれたシュラさんの顔を潰してもいいの?

「すまん、恩に着る」
 ビシッと腕を両脇につけて礼をしてくれた後、ラダさんは目にも留まらぬスピードで石段を上って行ったわ。やっぱり、顔には出さなくても焦っていたのね。
でも、まぁあの分じゃ時間内に間に合うでしょう。

「フッ、行きおったか」
 背中に誰かの気配がする…。
「さて、どうしてくれようか。噂に違わぬじゃじゃ馬だの」

 ほ…本能が振り返っちゃ駄目だって言ってるぅ…。

「くくくッまぁよいわ。振り返らなかった豪胆さに免じて、今回だけは見逃がしてやる事にしよう。ただし、次はないからそう思え」
 ふっと空気が軽くなった気がして、おそるおそる振り向くと其処には誰もいなかったの。でも、禍々しい何かがいたような気配が濃厚に残っていて、あたしは慌てて石段を上って行ったわ。別にあたしまで沙織お嬢さんのお部屋まで行く事なかったんだけど、独りが怖かったのよ。

 アテナ神殿の奥の沙織お嬢さんの私室の控え室に居たシュラさんがあたしを見つけてにっこりと会釈してくれたの。ソレントさんと話していたラダさんは、こっちを見てすまなそうに会釈、ソレントさんは笑っててを振ってくれたわ。そうこうするうちに扉が開いて、満足げな沙織お嬢さんとパンドラさん、ジュリアン君が出てきたの。余裕で間に合っちゃったってとこだったわけよ。
 お嬢さんたちは大きな声じゃ言えないDVDの鑑賞会ができたし、ラダさんはカノンさんと久しぶりの逢瀬を楽しめたし、あたしはそれを生で見れたし秘密のお茶会大成功ってとこかしら。

 でも、あの時にあたしの後ろにいたのはだれだったのかしら?

                    終


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