山茶花の夢小説
紅い薔薇のこと その4
「あの頃のことかね。…おれもよくは知らないのだ。おれはあくまでもお嬢様側の人間だし」
電話の向こうの辰巳叔父の言葉は歯切れが悪かった。
無理もないわよねぇ。なんたって関係した人たちが全員生き返ってしまっているし、陰謀に巻き込んだほうも、巻き込まれたほうも和気藹々といっしょにお酒を呑んだりしてるんだものねぇ。
まして辰巳叔父は、当のサガさんと呑み友達になっちゃってるし。聞きづらい事この上ないかぁ…酔わせて白状して貰おうにも、あのひとザルだって言うし。
カノンさんに聴いたトコじゃあ、他人の前では喩えどんなに呑んだとしてもけろっとしているんですって。
そのくせカノンさんと二人っきりで呑んだ時には、やたら甘えかかってきたりするっていってたわ。…甘えんぼのサガさん…かなり萌えちゃうわね。でも絶対わざとだとカノンさんは言ってたから、お酒の力を借りたフリでもしなければごろにゃんできない可哀想な人なのかもしれない。
もともと大酒飲み揃いの黄金の皆さんを酔わせて、どうこうしようなんて考える方が可笑しいのよね。よいでわないかよいでわないかなんて、古い時代劇みたいなこと考えたわたしがイケナイんだわ。
「お嬢様が許すとおっしゃられているんだし、あまり詮索してウザがられても居づらくなるだけだぞ。お前には昔から猪突猛進の気がある。相手はひとりで戦車くらいの破壊力を持った 男 なのだから用心するに越した事は無いぞ」
いま、『男』に妙に力を込めたいいかたをしたわよね。心配してくださるのはありがたいけどあいにくと私は男ばっかしの中で泥酔して正体を失ってしまっても、レ○プどころか優しく介抱されてしまった女よ。
と、言うかあちらが紳士だっただけだわよね。
「おい、聴いているのか?お前に何かあったらおれはお前の親に申し訳が立たん。だいいち、幼馴染のお前に何かあったらお嬢様が悲しむ」
…わかったから。叔父さんはあくまでもお嬢様第一なのは胸にしみてわかって居ますから。
「大丈夫よぉ〜。叔父さんは考えすぎ。あのひとたちはそんなことしっこないわ。でも、心配してくれてありがと。切るわね」
まだくどくど言いたそうな辰巳叔父との電話を一方的に切って、ためいきがひとつ。…悪い人じゃないけど疲れるのよね。
あのひとが私に興味を持ってくれたら、それだけで嬉しいんだけどなぁ…。目蓋の裏に浮かんだおもかげに切ないため息がもうひとつ。
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