山茶花の夢小説

紅い薔薇のこと 

 その1
こんこん!
軽いノックの音がする。
「はい、どうぞ。今日はどうされましたか?」

「いや、別に私は何事もない。ドクターサエラ、今日は私のバラが見事だったので、うるわしき女性達へプレゼントに来たよ」
 大きなバラの花束を抱えて現れたのは、腕に抱えたバラより美しいと言われる双魚宮のアフロディーテさん。
 見事な黄色いバラの花束を差し出されて、乙女心がキュンとなっちゃってもいいよね。
 でも、確か黄色いバラの花言葉って…

ばたん!
「お〜い!サエラちゅわん。俺ここんとこ怪我しちまってよ。クスリ塗ってくんな。…あれ、アフロディお前も怪我か」
 お前はカノンみたいにハラくだしたとはいわねーよな、とげらげら笑うデスマスクさんをキッと睨んでアフロディーテさんが怒って言った。
「お前などに『アフロディ』などと呼ばれる筋合いはない」
「べつにい〜じゃん。へるもんでなし。大体けが人でも病人でもない奴が医務室に居座ってんじゃね〜よ」
 デスマスクさんは、掌をひらひらさせてアフロディーテさんを挑発する。別に、余り立て込んでいる時以外ならただお話に来て下さる人も歓迎ですけど〜。

「私はただ、薔薇の花をプレゼントに来ただけだよ」
 アフロディーテさんは憤然と黄色の薔薇の花束を振り回す。よっぽどいいバラを選んでくれたのか、そんな乱暴な扱いでも花びら一つ散りやしない。
「プレゼントって黄色じゃん。黄色い薔薇の花言葉って知らないとはいわね〜よな」
 痛いところを突かれたといった顔を俯けてしまうアフロディーテさん。美人がそんな顔しないでぇ。
「…絶交と言いたいのであろう。私がそれくらい知らないと思うのか」
「だったらなんでだよ」
 鬼の首を取ったような勢いのデスマスクさん。似合う!この人こんな表情が死ぬほど似合うわ〜。
「…ピンクの薔薇はもうアテナに捧げてしまった。かといって、病室に白い薔薇ではぼやけてしまう。オレンジの薔薇はあまり出来が良くなかったし、人にプレゼントできるのはこの黄色くらいしかなかったのだ。」
 無論毒など持ってないただ美しいだけの薔薇でだ。

「じゃあ、双魚宮に溢れかえってる真紅の薔薇はなんなんだよ」
「あれは…」

 くちごもってしまったアフロディーテさんに畳み掛けるデスマスクさん。
「なんだよ?」
「あれは、もう別の人間に奉げたものだ。私の物ではない」

 ……ここから見えるあの薔薇は綺麗だな……

「…あいつか!かといって、あいつは薔薇なんか受けとらねぇし、世話をするのはあいつじゃないだろう?」
「私の自己満足に過ぎないのはわかっている。困らせるつもりもないから、持って行ったりはしない。ただ見て欲しいだけなんだ」
「はいはい、ご苦労さん。報われぬ恋って奴はつらいねぇ」
「デスマスク!」
「だってでホントの事だろ。本命が帰ってきたのでまがいものはもう必要ないってはっきりいわれたじゃん」
「あれは黒髪の方のサガだろ!ほんとうのサガはそんな事言ったりしない。」
「本とも嘘も、あいつら二人ともホントだろう。何で、アテナに許されたのかわかんないけどさ」
 え〜と、アフロディーテさんの所にはピンクと白とオレンジと黄色と紅いバラがあって、でもってピンクはもう沙織お嬢さんにあげちゃって、白は病室には似合わないと、でもオレンジは余りよくないから黄色にしたわけね。まぁ、花言葉なんて余り気にしないけど、綺麗だからいいわ。
 で、残った紅い薔薇はもう誰かのために捧げてしまったからあげられないと。
 その誰かってサガさん?アフロディーテさんはサガさんが好きなの〜?…そりゃあ、報われないわ。
 
 私は黄色い薔薇の花束を間に挟んで睨みあう二人を見て嘆息した。

 
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あきゅろす。
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