山茶花の夢小説
らっぱのマーク 6

「はい今日はどうされました?」
「・・・」
「…どういったご用件ですか?」
「…」
「あの…」
「・」

「お・き・て・く・だ・さ・い!シ・ャ・カ・さ・ん!」
 医務室に居た全員が振り向いてしまったけど知るもんですか!人が心配しているのに、知らん顔して居眠りしているこの人が悪いんだわ。

「…わ…わたしは眠ってなどいない」
 うそおっしゃい!いま、がくんとなったとこ見たわよ。いくら、ずっと目をつぶったまま生活しているといっても限度ってものがあるでしょ。
 で、どんな御用なんですか?

「…双子座…サガが、わたしは痩せ過ぎだというのだよ。Dr.サエラに一度診てもらえと。…わたしのどこが痩せ過ぎだというのかね。ただの標準体重に過ぎないではないか」
 う〜ん、確かにちょおっと標準体重は苦しいかも。サガさんが心配するのもわかる気がする。うらやましいを通り越して、気の毒になってくるもの。もうほんのすこし肉付きがよければ、サガさんに張るくらいの美形なのにもったいない…。ううん、顔の造作だけみたら美形ぞろいの聖域でも珍しいくらいの美形。背も高いしほんとにもったいない。

 そういえば、聖闘士のみなさんは大体体格のいい人が多い気がする。実際、みんな大男ばかりで見上げてばかりするので首が痛くなっちゃうわよ。…私も女性としては高い方なのだけど、私より小さい人なんてなかなか見当たらないわ。多分、黄金と白銀あわせた中で1番小さいのは天秤座の黄金聖闘士の童虎さんくらいかしら。

 のほほんとしてらして、フットワークも軽いお方だけれどなんと御年261歳!

 シオン教皇を黙らせられる唯一のお方だそうだけど、なんとなくわかる気がする。包み込まれるような暖かい小宇宙の持ち主だもの。紫龍くんの師なんだそうで、丁寧なお礼を言われたわ。

 シャカさんはさすがに其処までいってない感じ。ご自分で慈悲の心など無いとおっしゃっておいでだけど、それってどうなのかしら?

「食欲はありますか?無理なダイエットは体に毒ですよ」
「…わたしはダイエットなどしていない。…食欲は…ない」
 私はシャカさんの言葉に目を丸くする。
「食欲が無いのでしたら、いいお薬がありますよ」
「無駄だ。言い直そう、わたしは食欲が無いのではなくて、食欲を封じているのだ」
 ドヤ顔で言い切ったシャカさんだけど、食欲を封じるって?

「何かね?その反応は?わたしは修行のために普段は五感を封じているのだよ。自らを極限状態に追い込むためにね。…今はあなたとおしゃべりをするために聴覚を開放しているだけなのだ。何より味覚と触覚を封じてしまえば、食欲もなくなるということだ」
「味覚をですか?」
「そうとも。味覚を封じれば何を口にしてもまったく味を感じない、砂をかんでいるようなものなのだ。したがって、食欲などに縛られる事なく生存に最低限必要なカロリーだけを摂取する事ができると言う事だ」
 あたまが痛くなってきたけど…聖闘士の修行って其処までやらなきゃいけないものなのかしら?でも、カノンさんのことしか目に入ってないみたいなサガさんが心配するほどだからよほどの事だと思うのだけれど。
 でもさっきの居眠りといい、ひょっとして…。

「シャカさん、あなたは糖分が欠乏している恐れがあります」
「なに、糖分というのは甘味の事かね?」
 思いもかけないことを言われてきょとんとしたシャカさんに、私は胸を張って言い切ったわ。
「節制しすぎて、糖尿病の末期みたいな状態になっているんだわ。脳にアミノ酸が欠乏すると、突然意識不明になったりするんです。…今のシャカさんみたいに」
 あんまり自信は無いけど言い切っちゃう。だって、絶対体に良くないもの!こんなに骨と皮にまでやせてしまって、修行も無いものだと思うわ!
「むう…糖尿病というのはわたしも聞いた事がある。確か贅沢病ともいうのではなかったかね?…このわたしがそんなハレンチな病気にかかるとは…」
 眉根を寄せて苦りきった表情のシャカさんに、わたしは医務室に常備してあるミロさんにもらったキャンディの瓶からひとつ取り出してシャカさんに渡したの。
「これは?」
「いいから、食べてみてください。あ、もちろん味覚は開放してくださいね」
 シャカさんは大人しく私の手からキャンディを受け取ると、少し逡巡した末に自分の口に入れたわ。

「…甘いな」

 ずいぶん長い間甘いものを摂ってなかったシャカさんにはキャンディの甘さは衝撃的だったみたい。

「だが、懐かしい味だ」
 薄く笑みをはいたシャカさんの顔は仏像のように厳かで、わたしはしばらく見惚れてしまったわ。


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あきゅろす。
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