山茶花の夢小説
らっぱのマーク 3

「ですから、それは生理痛のお薬なんです!」
「かまわぬ。あいつがそれを指定しているのだ」

 医務室の入り口で問答している人がいるわ。でも、生理痛の薬?なんだか穏やかじゃないわねぇ。応対している看護士さんが気の毒になってきたので、加勢に駆けつけたほうがいいようね。

「どうかしたのかしら?」
 決まり文句も板についたもんよね。あとはにっこりと職業的スマイルもおまけにつけちゃう。サガさんのにっこり笑顔を参考にさせてもらったのよ。

「あぁ、Dr.サエラ聞いてほしい。私は○○という薬がほしいのだが、彼女が処方してくれんのだ」
 
 おやおや、珍しいお方がいらっしゃったわね。普段は極寒のシベリアにいらっしゃる氷河くんのお師匠さま水瓶座のカミュさん。
 でも、そのお薬は普通女性の生理痛の治療薬として知られているお薬だけど、いくらなんでもカミュさんに生理はないわよねえ。蠍座のミロさんとムフフな仲だっていうけど、どう見ても男性だし。

「え〜…とォ、それってカミュさんが飲むのかしら?どこか痛いところがおありですか?」
「いや、幸いなことに私ではない。ミロの奴が二日酔いで頭痛薬がほしいと小宇宙通信で伝えてよこしたのだ。無視してもよかったのだが、ぐだぐだとした泣き言をえんえん聞かされてたまらんので、代わりにもらいに来た。」
 相変わらずの冷静な顔で、説明してくださるけど。
「その薬はあいつの指定なのだ。『俺の頭痛にはこの薬しか効かんから頼む』と言われた」
 既にいろいろ試してみたと言うわけなんですね。
「だから、生理痛の薬だろうと何だろうとかまわんから処方してやってほしい」
 そこまでおっしゃるのなら処方して差し上げますけど、あのミロさんが二日酔いだなんてどのくらい呑んだのかしらね。黄金聖闘士の皆さんたちの宴会に飛び入り参加させていただいたことがあるけど、あの人たちの飲みっぷりはただ事じゃないのよね。

 だって、40度もある地酒が樽ごと出てきて食前酒だっていうんだもん。普通ワインとかシェリー酒みたいな軽いものでしょ。あれがなくならないかぎりご馳走が出てこないのかと頭を抱えたくなっていたら、それがあっという間になくなって…しかも皆さん顔色一つ変わってないのよ。
 私のためには軽いギリシャワインが用意されていたけれど、ほんの少しだけ舐めさせてもらった地酒はひっくり返りそうにきつかったもの。

「サエラどの、楽しんでおられるか?」
 いつもよりほんの少しだけ機嫌のいいシュラさんのグラスからひとくちだけ頂いたのだけど。
「面白い物を見せてさしあげよう。この酒は水で割ると、この通り」
 そういいながら、タンブラーの水に自分のグラスからウゾって地酒をひとたらし。
「えッ!すごい」
「な、面白いだろう。この酒は水で割ると濁ってしまうのだ」
 そう言って笑うシュラさんのお顔がかわいかったのは覚えているんだけど…。

 怖いことにその後の記憶がない…。

 もっとも、泥酔した女を毒牙にかけるような破廉恥漢は黄金の皆様の中に一人もいないと信じてるし、なによりボディスーツはしっかりとボディメイクしてくれてたから結局何もなかったんでしょうね。
 それはそれで女として悲しいものがあるんだけど…。

 でも、わたしを不幸のどん底に突き落としてくれたのはレ○プ疑惑ではなくてどんな薬も役に立たない二日酔いの頭痛だったわ。だから、もう生理痛の薬だろうと何だろうと効いてくれれば文句は言わない状況に至っているミロさんの気持ちもわかるんだ。

「ありがとうDr.サエラ。これで私の顔が立つ」
 ほっとしたようににっこりしてくださる氷河くんのお師匠さまの笑顔がなによりのお礼ですわ。

 いつもクールなお師匠さまにこんな顔させちゃうミロさんがちょっとうらやましくなっちゃったな。今度医務室へきたときくわしくきいちゃおっと。

 うれしそうに早足で石段を登っていくカミュさんを見送りながらそんなことを考えてた。

                 終

  

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あきゅろす。
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