山茶花の小説
樽チェアのこと その後8
「湿っぽい話はもうヤメだ!俺はひと泳ぎしてくる」
カノンはついさっき泣いたことが嘘のように明るく笑うと、波打ち際の方に駆け出していった。
ラダマンティスはカノンの後姿を見送りながら、軽く水分を取りパラソルの下にごろりと横になる。久々の休日に、日ごろの疲れが怒涛のように押し寄せあっという間に睡魔につかまってしまった。
何時間くらいそうしていたのか…気が付くと、あたりにカノンの姿は無くあれほど沢山いた人影も半数は姿を消していた。
「いかん、いかん、寝てしまったか」
眠気を覚ますために、ぶるぶるを頭を振りたてがみのような髪をかきあげてラダマンティスはカノンを探しに出た。
さいわい眠っていたのはほんの2,3時間のようで、真夏の太陽が沈むまでにはまだまだ時間はあった。
「おかしいな、どこへいったのだ?まさか…眠ってしまった俺に愛想をつかして、別の男としけこんでいるとかじゃあ…」
カノンに悪いと思いつつも否定が出来ない自分が悲しい。男同士だとか、体を繋ぐことに禁忌を持たない上に流されやすいカノンを繋ぎ止めておくことは大変だ。
長い髪の奔放な恋人を思ってラダマンティスはため息をついた。
一方カノンの方はと言えば、案の定さまざまな男や女から声を掛けられつつも適当にあしらって波打ち際を歩き、沖の小島を目指して泳ぎだした。
沖の小島と入っても、ホテルのプライベートビーチにあるような島なので実際はよく手入れのされた密会場所のような趣だったが、見た目はそこそこ自然に近いつくりになっていたのが気に入ってそこでねぼすけな王子様(野獣の方が似合いかもしれないが)を待つつもりだった。
あおいあおい透明な水は滑らかにカノンの体を包みこみ、仕事ではないオフの海を堪能しようとしたとたん、体の周りの水が急に粘度をました。
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