山茶花の小説
とあるなつのひのあけがたのつづき その1 サガ×カノン
ゴールデントライアングルの異次元空間の中を、二人で冥界から人界へと渡っていく。
「なぁ、サガ?」
傍らに立つ兄の紫の瞳を覗き込んで、カノンは問いかける。
「どうした?」
笑みを含んだ瞳で、兄は冥界の男から取り戻した弟に向かい合う。
「いま、独りになってるだろ?」
濃い紫の瞳に映ったカノンの顔は悪戯っぽく笑っている。
「ふふ、流石にお前にはわかるか。勝手もわからぬ冥界で、お前と相討ちになったほどの男相手なのだ。打てる手は総て打っておくさ。」
大事なお前を取り戻す為だものな、そう言ってサガはごく自然にカノンに口付けした。巧みなキスに陶然となりながら、兄の体にしなだれかかる。
「サガ…我慢できなくなっちまった。…此処で抱いてくれ」
「こんな異次元空間でか?」
呆れたように言うサガの紫紺の髪を軽く引っ張って口を尖らせる。
「今のサガに抱かれたいんだ!……どうせ、また分離れちまうんだろ?」
青紫の髪を持つサガと、もう独りの黒髪のサガとに…。
抱いてくれないサガと、子供の頃からずっと抱かれてきたもう独りに。
「ラダマンティスの奴に、散々可愛がられたのではないのか?」
兄の眼が冷たくなり、ラダマンティスに付けられた首筋の鬱血痕を指差した。
「だからどうしたよ!今はサガに抱いて欲しいんだよ!……なんだか、今のサガ見てたら、体の奥が疼いて堪らなくなってくるんだよ…」
紅くそまった頬を隠そうともせず、胸を張って言い切ったカノンに、広い肩をすくめてため息を一つ。でも、決して厭がっている風でははない。むしろ、面白がっているようだ。
「…わかった。双児宮に帰ったら全身丸洗いにしてやるから、その後でな」
仕方のない奴めと、カノンの肩を抱き寄せ口付けた。
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