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0146
「あの」

後ろを睨みつけるように振り替えると、そこには控えめに俺を見つめる女がいた。首筋に記された数字は二桁で、見るからに俺以下の破面(アランカル)。ここにいるのは気の強い女ばかりだから少し珍しい者を見るように俺は彼女を見た。

「あ、あの」

もう一度彼女は俺に言った。頬に赤みを帯びて恥ずかしそうに。だから俺は「何だ」と用件を訊いた。すると彼女はすっと、箱を俺へと差し出した。

「藍染様が、グリムジョー様に渡してと申されておりましたので」




あの時の箱は茶葉だった。
「それ」「はい」「テメーは淹れれるか」「あ、はい」「名前は」「イリアです」「今日から俺の元で働け」「あの」「嫌か」「いえ」
それをきっかけに俺の従属官(フラシオン)になった彼女は毎日俺の為に紅茶を淹れる。毎日律儀に朝から夜まで。俺のカップが空くと紅茶を注ぎ、任務から帰ってきたら紅茶を渡すのが彼女の仕事。たいして好きでもない紅茶をこうも毎日飲むのは彼女の表情に魅せられるから。好きでも嫌いでもない紅茶だが、野郎が注ぐより好きだった。

今日も任務から帰って来ると彼女が奥の方から礼をしながら「おかえりなさいませ」と俺に言う。そしてソファに座るとほぼ同時に出される紅茶。その紅茶の横にはスコーン。

俺がじっと紅茶を見つめていると彼女は不安そうに「お気に召さなかったのでしょうか?」と訊いてきた。だから俺は「いや…」と応える。ぼろぼろの服の方に視線を向けた彼女は「今すぐ着替えを持ってまいります」と不安定な敬語を使ってクローゼットの方へと駆けて行く。洗濯された服を彼女はスコーンから少し離したところに置いて「すみません」と謝る。謝る必要なんて無いのに。

「イリアはよぉ、俺の元で働いててどう思う」

「とても楽しいです」

「ウルキオラのところにいた時よりもか」

「はい」

彼女は以前、ウルキオラのところで働いていたが、直々に藍染に言って変えてもらった。少し強引な方法だが、彼女はすんなりとそれを受け取った。

「それなら良いが」

紅茶を啜って息を吐く。すると彼女が珍しく隣に座った。

「あの、グリムジョー様」

そう言って俯く。

「どうした」

「あの、」

改めて言って俺を見つめる。顔全体が真っ赤で口をぱくぱくさせている。次の言葉が出てこないらしい。察している俺にとって次に出てくる言葉は大体解っているのだが―――ここは彼女の言葉を待つべきなのか?

「あ、の……っ!」

次の言葉が未だ出ない彼女の唇をとりあえず一舐め。先程飲んだ紅茶の味がする。

「好き、か?」

「えあ、あの、う、ぐすっ」

泣き始めやがった、もしかして。もしかして俺は勘違いをしていたのだろうか。彼女が俺を好きだとか、彼女が俺に告白するとか。もしかしてとんだ勘違いだったのだろうか。誰かが好きだという恋愛相談だったのかもしれない。そこまで脳みそが働かなかった。

「あー、悪かった」

「え、何がですか?」

きょとん、と。涙を瞳に浮かべたまま俺を見る彼女。

「は?じゃあ何で泣いてるンだよ」

「えっと、あの。混乱して、言いたい事疑問形で訊かれて」

「つまり、何だ?」

「私はグリムジョー様のことを前々からお慕いしておりましたっ!」


彼女曰く。ウルキオラの従属官(フラシオン)だった頃から俺に憧れていたそうだ。喧嘩してるのを見ながら心配したり、身勝手な行動をとるところを見てウルキオラに報告しようか迷ったり。そんな事をしてるうちに心が惹かれていったと。実はあの箱も、それを見た藍染が彼女に、チャンスをあげよう、と持っていかせたものだと。そこまで言いきって彼女は俺の胸に頭を埋めた。恥ずかしいです、と。今の状態の方は恥ずかしくないのだろうか。

「つまり―――俺に近付いたのは偶然ではなく藍染の策略、と?」

「はい、すみません」

「まあ、俺の心を動かした事には褒美をくれてやろう」

彼女の唇に次はキス。

彼女の心をここまで分解した俺は、多分、分解しただけ分解されてるのだと感じた。

分解(デコンポーズ)をテーマにしましたすみません、リオ様へ捧ぐ相互リク!リオ様のみ書き直しお申し付けください@薄雲

20110827


あきゅろす。
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