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0145
こんな場所にピアノがあるらしい。
というのも集会から帰る途中、微かだが音がどこかから零れ落ちてくるのだ。はっきりくっきりした曲なのに刺々しさが無く響く音は俺の耳を柔らかく舐めた。非常に不愉快だ。そう思いながら自宮へ向かう足を方向転換させてその音の方へ向かった。段々近くなる音と霊圧。女か、と思いながらいつものストレス発散に役立てようと怒鳴り方を考える。ここの女なら俺が怒ると泣くか怒鳴るかのどちらかの表情をとるに決まっている。その少し変わった女の部屋の扉の前で止まった。どこよりも高いであろう扉は威圧感すら感じさせる。汚れ一つ無い真っ白な扉。ぶっ壊してーやりたいところだが、この扉を壊す力が俺にあるのかと云う疑問に辿りつき、ただ単純にその大きな扉のドアノブに手をかけた。開いていた。無用心な女だな、と嘲笑いながら扉を全開に開けるとそこには一つの真っ白いピアノと青色がかった黒髪の少女がいたのだ。白いピアノと彼女、それからソファと天蓋付きベッド、板チョコレートでつくられたタワー。それでけしかない、部屋。彼女は俺に気付いているのか気付いていないのか解らないがピアノを弾く事を止めない。苛立った俺は彼女の背中に近付き「おい」と呟く。返事が無い。音楽を続ける。だから俺は無性に苛立った。彼女は俺に気付いていないフリをするようだ。それならこっちも考えがある。俺の大きな手でピアノの鍵盤を叩いてやった。不協和音が響き彼女の真っ白い指が震えた。青いマニキュアを塗った指先を一瞬、指揮者のようについっと上げて下げた。左手にしている青い腕輪。それの位置を直してこちらを向いた。子供らしい無邪気な顔が脅えている。しかし睨んでいる。

「誰です?」

「俺を知らねーのか?」

「自分の事を皆が知っていると思ってるなんておめでたい人ですね」

「十刃(エスパーダ)を知らねぇくせによくここに居られるな」

「新しいチョコレートですか」

「違ぇ」

マジで知らないのか、と呆気にとられつつ怒鳴る事を忘れて彼女の髪を手にとった。しかし彼女はその髪をバッととりあげて「汚い手で触らないでください」と俯き加減で言った。

「お前はその、何でそこにいるんだ」

「藍染様がここをくれたです」

「藍染に連れてこられたのか」

「私、ある人と一緒にここに来たです。でもその人は危ないから離れてろって私を突き離したです。だから藍染様に頼んでここを貰ったです」

「ある人?」

「ある人です。名前なんてもう忘れました」

「ふうん、で、今のは?」

「私が生きてる時好きだった彼が私の為に創ってくれた音です。私はこの曲を彼の為に弾いてるです」

「で、彼ってどんなやつなんだ?」

「教えなくても貴方の知ってる人です」

「ここにいるのか?」

「いえ、生きてる時貴方も私と一緒にいましたから、貴方は忘れたと思いますが」

「よく覚えてるな」

「そうですね」

「で、その、俺はお前とどういう関係だったんだ?」

そう問うと彼女は一瞬寂しそうに笑ってまたその曲を弾き始めた。

触れない音
(さわれない)(ふれない)

突発的に書いちまったな文章@薄雲

20110824


あきゅろす。
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