0138
「名前、なんつーんだ?」
突発的な彼の言葉に驚きを隠せず首を傾げる私。ここへ来て名前を訊かれたことなんて無い。みぃんな番号で呼ぶから。私の事を「三桁」って。だから名前なんか言った事が無い。
「知りたいのかな、グリムジョー・ジャガージャックさんは」
そう訊くと意地悪く笑って「知りたくなんざ無ぇよ、ただ名前が解ンねぇと名前、呼べねーだろ」と言った。そんなの番号で呼べば良いじゃないなんていう言葉は胸の内に秘めておくことにして私は宙を仰ぐ。名前…、名前かあ。
「名前はまだ無い」
「夏目漱石は良いからさっさと教えやがれ」
どうやら不良っぽいのに夏目漱石を知っているらしい。
「私は、生まれてこの方名前を誰にも教えた事が無いの。生前も、死後も。現在に至るまで名前なんて誰にも教えたことが無い。だから名前なんて忘れちゃった」
「ふぅん?じゃあテメェ、名前無いのか」
「まあね」
そう言うと彼はにやりと笑った。どうやら悪い事を思いついたらしい。
「イリア。これがテメーの名前な」
「どういう事でしょうか」
「俺が今決めた。テメーの名前」
「イリア…。ふぅん、良い名前ね」
「だろう?」
彼のにやついた表情が面白くって、私ははにかんだ。
お名前教えて
(名付け親は彼ですか)(なんだかくすぐったい)
20110730
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