甘い時間を召し上がれ
二限目が終わってすぐ、ラビを探しに俺は教室を出た。
保健室に行った後、ある程度廊下を見渡してもあの目立つ朱髪は見当たらない。
「…あ、」
すると、ちょうど目の前に肩を並べ楽しそうに談笑しながら、歩くバカップルを見付けた。
「なぁ、ラビ見なかったか?」
話を中断させて悪い、と詫びをいれると、二人は大丈夫だと言って笑った。
「残念ながら、ラビは見てないわ」
「僕も見てないです。朝、一緒じゃなかったんですか?」
「…朝は、一緒だった」
そう、朝は一緒だった。
クラスも同じなのだが、ラビは一限目を受けた後唐突に姿を消してしまったので、どうせ保健室にでも行ったのだろうと思っていた。
で、さっき保健室に行ったのだが…。
「え?ラビは来てないよ?」
なんて、眼鏡の保健員に言われ俺は頭を抱えた。
(あの野郎…サボりかよ。)
「ラビの事だから、何処かでサボってるんじゃない?」
そうリナリーは笑い、モヤシは隣で、ラビの場合、授業も受けずに昼寝でもしてるんじゃないんですか?なんて呆れていた。
「ん…、分かった。もういい」
サボりだったらあそこか…、とその場をあとにしようとしたが神田!とモヤシに呼ばれ、仕方なく振り返った。
「何だよ?」
「その…神田とラビは、何処までシたんですか?」
「…は!?」
「いや、ラビの事だからきっと手が早そうだし、もう結構イケない関係なんじゃないかなぁと思って」
にこやかに、そんな話をするモヤシを俺は凝視した。
てか…何つー事を聞いてくるんだ、こいつは…!!///
「ばっ、馬鹿かテメェは!!///」
「その反応は…結構それなりだと思ってイイ、って事ですよね?」
へぇ、そうなの神田?と、リナリーも隣で興味津々というかのように聞き込んでいる。
ったく、何なんだこいつら。
「…発情してんじゃねぇよ、ガキが。ろくでもねぇ奴になっても知らねぇからな」
例えば、アイツみてェな。
そう付け加えてやると、二人は何故か満足そうな顔をした。
「てか、そういうお前らはどうなんだよ」
「え、何がですか?」
「惚けんな、お前らの方こそ毎度毎度イチャつきやがって。それなりの事は、済ませてあんだろ?」
すると奴らはみるみる内に頬を真っ赤に染め、黙り込んでしまった。
…何なんだ。人には平気でそういう話題を振る癖に、テメェらの事になるとさっぱりってか?
はっ、これだからガキだっつーんだよ(自分もだって事に気が付いてない)。
「じゃーな、」
それだけ告げると、俺は目的の場所へと急いだ。
「はぁ…、」
向かったのは屋上。
とっくに予鈴は鳴って、今はどのクラスも授業に専念している筈だ。
アイツを探すために授業をサボるのも馬鹿な話だと思いつつ、俺は屋上の扉を開けた。
「さっむ…」
空は晴々としているが、風が強い為、制服のスカートにはかなりキツイ。
(チッ、これだからスカートなんざ履きたくねぇんだよ…)
なんて心の中で悪態をついていると、ふと頭上から物音がした。
(…あ?)
頭上、といったら扉の横に設置されている梯を使い、その上に昇った所だ。
そこからしか物音は立たないだろう。
仕方なく俺は、その梯を使って上へと昇った。
(…居た、)
居た。
腕を組んで頭の下に置き、長い脚を組みながら眠る、ラビが。
先程よりも緩やかになった風が、ラビの柔らかい髪を靡かせている。
(なんつー気持ち良さそうな顔で寝てんだよ)
ラビの近くにしゃがみ込み、その柔らかな、朱髪にそっと触れる。
ラビに触れた先から、指が熱くなるように感じて思わず手を離してしまった。
「ん…」
突然、ラビが声を出して喉仏が上下に動いたので、起こしてしまっただろうかとも思ったが、ラビはまた安らかな寝息を立て眠ってしまった。
それを見て、少しホッとする。
おかしい、確実におかしいんだ。
付き合い始めたばかりな訳でもないのに、最近、見詰められるだけで、名前を呼ばれるだけで、触れられるだけで自分が変になりそうになる。
いや、正確には変になる。
身体が熱くなって、胸が苦しくなって、呼吸が出来なくなって。
まともに、ラビの顔を見ていられなくなる。
一線はとっくに越えてしまったが、最近は昔より、ラビの俺の扱いが本当に優しい。
まるで、壊れ物を扱うかのように。
それが逆に、気恥ずかしさを生んでいるのかもしれないと考えた。
(…でも、何かが違うんだ)
「…おいラビ、起きろ。もう三限目、始まってんぞ」
ラビを起こすために、ゆさゆさとラビの身体を揺する。
すると少し経ってから、んー…と間抜けな声が聞こえてきた。
「ったく…、何授業サボってんだよ、俺までサボる羽目になっちまったじゃねぇか」
小さく溜め息をついてやると、ラビは左目をうっすら開けながら『別にユウがオレを呼びに来なければ、サボる必要もなかったんじゃない?』なんて笑みを見せてきた。
「なっ…!///」
…そりゃそうだ。完全に図星。
こいつが授業サボるのなんて、俺が気にしなければ、俺は授業をサボる理由なんて何もない。
でも性格上、そんな事を簡単に言えるような俺ではない。
だからなんとか『テメェが授業サボるなんざ、俺が許さねぇ』と適当な言い訳をした。
それでもラビはクスクスと笑うから、俺は気に食わなくて視線を逸らした。
「ね、ユウ…」
名前を呼ばれた瞬間、鼓動が高鳴り身体全身の血の巡りが急速に速くなる。
ラビの顔を直視出来ない為、俺はそのまま俯いた。
だが、ラビが不意に俺の頬へと手を伸ばしてきて、そのまま親指で口唇に触れた。
「んっ…」
しっとりと、ゆっくり撫でられて身体が甘い痺れに犯される。
「…おいで、」
そう囁かれて、俺は誘われるようにラビに顔を近付けた。
「…ふ、あ…っ」
重なった口唇から、無意識に溢れる声。
甘ったるいから好きじゃないと俺は言ったんだがアイツは、ユウの声、可愛くて大好きさ…なんて言うから、余計に出したくなくなる。
でも。
「あっ…は…ふぅ、ん…っ」
ラビの舌が俺の上顎を、俺の歯列をなぞる度、この甘い痺れに耐え切れなくなってしまうんだ…。
「…はぁ…っ、」
やっと放された口唇。ラビは自分の口元に流れる、二人の唾液を指で拭った。
「っ…」
…その仕草が酷く色っぽい、なんて死んでも言わねぇ。
「ははっ…ユウ、超カワイイさ」
起き上がって、俺を後ろから抱き込むラビ。
先程の余裕や色っぽさは無く、普段の馬鹿っぽいヘラヘラした表情。
「煩ェ…っ馬鹿!」
『かーわーいーいー』と顔を擦り寄せてくるので、ウザイっと言わんばかりに俺は顔を背けた。
ちゅ、
「っ!?!?///」
「あははっ、ユウ顔真っ赤っ」
マジ可愛過ぎっ、そう笑うラビと恥ずかし過ぎて何も言えずにラビを睨み付ける俺。
嗚呼…なんだかんだ言ったって俺達も、アイツらと変わらない位馬鹿なカップルらしい。
「死ね、馬鹿兎…」
「ユウちゃんの為なら、オレマジで死ねるさよ?」
甘い時間を召し上がれ
(バカップル…っていうのは気に食わねぇが、俺が心底アイツに惚れてるっていうのは、認めてやるよ)
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繭様、素敵な小説ありがとうございました
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