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恩方とモフモフ
3


パックリ

突然リューテス達の目の前の壁に一つの切れ目が出た。

上下に開いた割れ目の中から歯が覗き、ベロンと青白い舌とヨダレが垂れた。驚くリューテスの目の前で空気を吸うように蠢いた割れ目から、突如として割れるような悍ましい歌が流れた。

【壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れ壊れろ壊れろ壊れろ壊れ】

それはリズムも何もなく、只複雑な音階の重なりによってかろうじて歌の体裁が整っていた物だった。

「ギャァァァァ!?」

それを間近で聞いた【偽恩方】と取り押さえていた騎士が悶え苦しむ。

「おいどうした!?」
「何があった!」

周りで声を掛ける人々を無視して、二人とも両手で両耳を押さえながら白目を剥いて床の上で痙攣を繰り返している。

騒然とする猫人に構わず、シングは無言で剣を翻し剣を壁に突き立てて口を潰した。

すると二人の様子は落ち着いたが、辛そうに体を折り曲げてうずくまっていた。

「シング殿、これは一体!?」

キールの問い掛けに剣を壁から引き抜きながらシングは瞳を向けた。

「【口無】という化け物だ。こいつの歌を聞くと頭をやられる。」
「なっ!」
「まだまだ来るぞ。アイシャの王子よ気をつけろ。」

戦闘を予感して構える狼達に、慌てて猫人の騎士達も戦闘体勢を取る。周りを騎士に囲まれたリューテスの目の前では、新たに壁から口が産まれ【口無】が発生していた。

新たに産まれた【口無】は、割れた口を押し上げてニュルニュルと黒い塊がせり上がってきた。壁から流れ落ちた粘性が高い黒い塊は床の上でモッタリと山になり、無数の足を生やして黒い塊を引きずりながら動きはじめた。

それは幾つも幾つも産まれて、再び呪詛を吐きながら人々へ襲い掛かる。猫人も狼も【偽恩方】と学者達を庇いながら剣を翻す。

素早く不規則に動く見たことの無い敵に猫人の騎士達は苦戦し、狼達に助けられている状態だ。

「何!?」

【口無】の一体に切り掛かった騎士が驚愕の声を上げる。

真っ二つにしたはずの【口無】がみるみると塞がっていくのだ。

一瞬呆気にとられた騎士の隙をついて剣を辿って一気に肉薄する【口無】。騎士の目の前にヨダレの糸を引きながら大きく開いた口が迫ってくる。

ムワリと生臭い息が顔にかかった。

「おりゃぁ!」

騎士の後方から狼の青年が上段の蹴りを放ち【口無】を蹴飛ばし、吹っ飛ばした。

「すっすまない!」
「気をつけるッス!」

片腕を庇いながら戦う青年は走り去ると、部屋の扉に張り付いた。

「陛下!外も【口無】がいます!」

僅かに開いた扉からは【口無】に追われて逃げ惑う学者達が見えた。

幾ら倒しても復活して呪詛を吐き出す化け物達に冷や汗を流すリューテス達。

「糞!きりがない!」
「聞けアイシャの王子よ。こいつらは親玉を倒さなければ消えない。」
「親玉をやれば全部消えるってことかシング殿!」
「ああ…。我等の鼻なら居所も分かる。我等が行こう。」

一気に三匹の【口無】を倒しながらリューテスに話し掛けるシングの言葉に、同じく剣を振るっていたリューテスは頷く。

その時には十数匹いた【口無】は、狼達の手によって家具の下敷きになり動けなくなっていた。

「リューテス様。どうやら館内中に化け物は沸いているようです。」
「よし、騎士団は民間人の救援に向かえ!切り掛かるのではなく、家具等で無効化するようにしろ!俺はシング殿に付いて化け物の討伐に向かう。」
「リューテス様!?」
「了解しました!」

キールの抗議を無視したリューテスの指示に従い、剣を携えた騎士達が部屋から次々に出て行く。

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あきゅろす。
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