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恩方とモフモフ
【捜索と乱入の庵】
「ここだそうだよ…。」
「おいおい、聖所じゃねーか。」

リューテス達が訪れたのは、アイシャの国土の三分の一を覆う森にある一本の大木だった。 

太い幹には苔が繁り天を支えるように広がった枝が大地に影を落としている。王樹程ではないが長い年月を感じる大樹で、その根本には数軒の木造の建築物が有った。

馬から降りたリューテスが頭上を仰ぐと、深い葉の間から不釣り合いな青い屋根が見えた。

ここは【大樹の庵】

かって【恩方】が住んでいたと言われている、巨木の上に建てられた巨大なツリーハウスだ。

大木の根本にリューテス達が近付くと、建物から渋い顔をした男が出て来た。

「おぉ、リューテス殿下。やっと来て頂きましたか!」

リューテスに気付くと喜びを隠さずに近寄ってきた灰色の垂れ耳の老人は、この【大樹の庵】にて学び屋を開く事を許された学者である。基本的に【恩方】関連の遺産はその知識を受け継ぐ【学院】の学者達が管理している。

普段は深淵を含んだ静かな瞳をした老学者は、疲労の色を隠さずにリューテスに話し掛けた。

「さぁさぁ殿下、さっさとあの不届き者を追い出してくだされ!」
「おいおい、フラット翁。もし【恩方】だったらどうするんだ?」
「誰が【恩方】ですと!?あのような学問のガの字も知らない無学の輩なんぞ偉大な【恩方】な訳がないでしょう!あの愚か者は我々の研究を一笑したあげく、実験器具に使われている金に夢中になっているのですぞ。しまいにはそれを欲しがる始末!高い食べ物を欲しがるし貴重な蔵書に水を掛けるし我慢なりません!」

数日前に突然現れて【恩方】を名乗り彼等の研究所に居座った男を思い出し、尻尾をブワッと逆立てるフラット翁。明らかな偽物だが、一応【恩方】と名乗っているので無下に出来ないので厄介だった。

「さーて、偽物の所へ行こうか。」
「…。」

頭を掻きながら翁の案内について進むリューテス達の後ろから狼達も続いた。中の一人が腕を押さえてよろめいたのを、仲間の一人がそれを支えた。

それを鋭い耳で感じたシングは歩きながら頭上を仰いだ。彼の鋭い視線の先には木漏れ日を浴びる庵があった。

そっと手を這わした剣の柄がキュインと震えた。

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