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恩方とモフモフ
4
「分かった。」
「本当か!?」
「ああ、少し離れて。(可愛い可愛い)」

葵色の瞳をキラキラとさせるアルを退かせて、ベッドに立てかけていた杖を手にとって立ち上がったセクセラムは姿勢を正すと、一息深く息を吸って不思議な言葉を呟いた。

セクセラムの低いテナーで呟かれたそれは独特の節が付き、唄に近い物だった。

すぐに不思議な現象が起こった。

セクセラムの口から出た言葉が光の泡となり、彼の持つ杖の先に集約し始めたのだ。

見たことのない不思議な現象にアルとグラドは言葉を失った。

フワフワと杖の周りを漂う泡は金色に優しく輝き、セクセラムはそれに包まれて弾けるように言葉を連ねていく。

二人はセクセラムの心地良い言葉を耳にしながら、まるで幾つものシャボンを束ねた花束のようになっていく杖を夢中で見ていた。

『小さな火の華、おいで招来!』

突然セクセラムが高らかに言い放ち、トンと杖で床を突いた。その瞬間、杖に集まっていた光の泡が弾かれたように四方に移動した。部屋一杯に広がった光の泡達は、連鎖して一気に弾けた。

「花火…。」

アルが見上げながら呟く。

そう、セクセラムが呼び出したのは、光の精霊と協力して作った小さな光の花火だった。

セクセラムが楽しげに杖を突く度に涼やかな音と同時に泡が弾け、光りの火花が金色の雫を垂らしながら円形に広がった。光の中には様々な色が混じっており、室内は賑やかな花火によって、一気に天に満ちんばかりの極彩色に染まる。

あまりの膨大な光量に音が聞こえてきそうだ。

『おいで!』

再びセクセラムがアルに理解出来ない言葉を呟く。すると、床に落ちた光の雫がセクセラムの手元に向かってザァと集まった。

幾筋もの光が雨音のような音を奏でながら、セクセラムが振るう杖に従って宙を舞う。

光の流れが幾つも空中を舞う姿は、まるで夢幻に存在する光の滝だった。

神々しい光の滝は暫くするとアル達の目の前で薄れて消えていった。

「…。」
「…。」
「どうだったかい?」

シンとした余韻を残して消えた光を見つめたまま絶句しているアル達に、乱れた髪を直しながらセクセラムはハニカミながら聞いた。

この魔術は魔術師のパーティー用の魔術で、かってレン達にも披露して大好評だったので自信がある。

両手で杖を持ちながら二人を伺っていると、我に返ったアルが両手を上げてセクセラムに抱き着いた。

「素晴らしい!素晴らしいぞ!何たる摩訶不思議、豪華絢爛、華美驚嘆!こんな美しい光景は初めて見たぞ!」
「セクセラム様ァァァァ!俺、感動で前が見えません!」

真っ赤な顔で興奮して褒めちぎるアルの後ろではグラドが感動のあまり涙を流していた。

見目麗しい二人に褒めちぎれて、気分は悪くないセクセラムであった。

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あきゅろす。
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