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恩方とモフモフ
【猫人の国アイシャ】
「誰かと勘違いしてはいないか?私の名前はセクセラム・セト・ウブム。【おんかた】などという名前ではない。」

先程少年が口づけた部分を押さえながら、顔を赤らめて応える私を見て美しい少年は再び微笑む。大人びた対応といい、まるで中世の貴族のような服装といい、一目で特権階級の人間だと分かるこの子は何者なんだ?

「貴方が人間で、五百年前にこの大陸を救う為に王樹に身を捧げて眠りについたのなら【恩方】だ。」
「何だって…、私の事が今だに伝わっているのか!?」

驚いた…。
てっきり忘れ去られているものと思っていた…。

「伝わるも何も!【恩方】の伝説はアイシャの者なら言葉が分かると同時に教えられる物語です!毎年毎年【恩方】を題材にした小説や絵画が出されますし、【恩方饅頭】や【恩方煎餅】は首都一番の名物です!というか【恩方】のお名前はセクセラム・セト・ウブム様とおっしゃるのですね!?何と美しくも神秘的な響き、俺一発で覚えました!」

鼻息が荒い青年が、私を見て感動して叫んでくる。

しまったぁぁぁ。

変態に名前を覚えられたァァァ。少年に夢中になってウッカリしていた。というか、なんだ!その観光地の客寄せみたいな私の扱いはコノヤロー!

猫人に利用出来る物は利用するという商売のイロハを教えたのは私だが、自分が利用されると腹立つな。

「自己紹介が遅れました。僕の名前はアル・レン・アイシャリブ。この国の王の甥です。こちらは使用人のグラド。」
「グラドです。宜しくお願いします!」

お前とは宜しくしたくない。

それより先程聞き捨てならない言葉を耳にした気がした。

「レン?」
「直系ではないですが、私は貴方が教えを説いたレンの子孫です。」

レンの子孫…。

その言葉を聞いた瞬間、私は少年を見つめる。

間を置いて言葉の意味を理解した瞬間、ベッドから身を乗り出して少年を抱きしめていた。驚いている少年の顔を両手で挟み覗き込む。

目を見開き驚いている少年の顔は、花のように可憐だったレンと違い、まるで宝石細工のように美しく面影は見受けられない。しかし、瞳に宿る意志の強い光は彼と酷く似通っていた。

「君は…、レンの子孫なのかい?」
「はい。」
「お願いだ、教えてくれ。私が眠った後、村の皆はどうなった?傷付いた虎や獅子達は?レン、イル、セトラや子供達は?」

横でグラドが頬に手を当ててキャーと呟くが無視だ。

私は知りたい。
あの後、彼等は幸せになったのかどうか。
傷付いた彼等は無事だったのか。
それを心の底から願いながら私はレンの血族であるアルを見つめた。

私に抱きしめられたアルは元の美しい大人びた顔に戻ると私の手をソッと握り、何から話しましょう?と呟いた。

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あきゅろす。
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