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恩方とモフモフ
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暫くして、二人の姿は王宮の入口の門の所にあった。

今回、また新たに【恩方】の情報が寄せられたのだ。リューテスとキールはその者に会う為に騎士団と共に用意をしていた。

騎士団の面々と話しをしていたリューテスに後方より声がかけられた。

「せわしい事だな、リューテス殿。」

低い感情があまり込められてない声に振り返ると、そこには僅かな供を引き連れただけの、セオボルドの王であるシングがいた。

「シング殿、せっかく国王自らお越し頂きましたのに、歓待出来ず誠に申し訳ございません。しかし、今回は我が国の大事の為、御了承頂けないでしょうか。」
馬から降りたリューテスが丁寧な所作で頭を下げると、シング王は興味なさ気にリューテスに答える。

「構わない。我等はそのような事は気にしない故…。」
「ありがとうございます。使用人達には申し付けて下りますので、お好きにお使い下さい。どうか我が国をお楽しみなさって下さいませ。」

興味なさ気な言葉に頭を上げたリューテスは笑って応える。

片方は大陸有数の大国の王子に、もう片方は力を付け始めていると言っても大陸の嫌われ者国家の王。格は全く違うが、国を背負う者同士、一定の敬意は払わないといけないのでリューテスは平常とは違う丁寧な言葉で応える。

それにリューテスは、例え虐げられようと誇りを失わない狼達の言動が嫌いではなかった。

先程のアイシャを楽しんで欲しいという言葉も心からのものだ。

しかし、シング王はユルリと首を振った。

「今から探索に行かれるのであろう。我等も加勢いたそう。」
「しかしながら、一国の長にそのような雑務をさせる訳には…。」
「アイシャの王子自ら出るような案件は十分重大と言えるのではないか?それに、我等狼の鼻は猫と比べようもない。探索にこれ程役立つ者はいないと思うが?」
「それはそうですが…。」「それに、彼の者には我々の祖先も世話になっている。我等も捜索に参加させて頂こう。」

凍えるような隻眼がリューテスを射抜き告げられる。願うというより命令の色が強いその言葉に周りの騎士達の敵意が高まる。

無礼なと声を上げようとする騎士を制してリューテスはシング王に頷く。

「失礼致しました。それではお力をお借りしても宜しいでしょうか?」
「無論…。」

頭を下げる王子に頷いたシング王は話は終わったと言わんばかりに、さっさと騎士達の列の後方へ去ってしまった。

「一体何の酔狂でしょうかね?」

キールが呟く。今は部下の前なので敬語である。

「さあな、分からねー。何か目的があるのか、もしくは本当に【恩方】に謝罪をしたいのか。」
「まさか。」
「まぁ、狼がいれば効率が上がるのも事実だし、タダで狼の力を借りれるなんて滅多にない事だ。有り難く頂こう。」

不満げなキールに告げたリューテスは美しい栗毛の馬に跨がりその腹を蹴った。

素晴らしい速さで走り出すリューテスの愛馬は軽やかに王宮の堀に架かった橋を駆けていく。キールも慌てて愛馬を駆けさせ、騎士達も次々に馬を駆けてリューテスに続く。

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あきゅろす。
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