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恩方とモフモフ
【探索の中】
王宮のリューテスの執務室。落ち着いているが品の良いそこには国の王子であるリューテスと腹心のキールが机に着いていた。

リューテスはコツコツと机の上を指でリズミカルに叩きながら、不機嫌さを隠しもしなかった。報告書に目を通すその顔は焦燥し、赤い瞳の下には濃い隈が出来ている。

「リューテス、あまり根を詰めては駄目だよ?」
「キールこそな。」

心配そうなキールもまた、その瞳の下に深い隈を作っていた。

「見つからないね。」
「落ちた光の数が多過ぎなんだ。それに次から次から偽物が出てきやがって。」
「以前から【恩方】詐欺はあったけど、あの晩から格段に増えたよね。」
「昨日行った先に居たのは小太りのチビのオッサンだったぞ。毛が禿げた耳を指差して【恩方】と主張してやがった。」

ペンをガジガシと噛みながら吐き捨てるリューテス。

彼等は三日前のあの夜から王樹から放出された光の流れ星の行き先を探していた。正確には、光と一緒に首都に降り立ったと予想される【恩方】だ。

彼の方を見た者はリューテス以外もいたが、一番間近で【恩方】を見たのはリューテスだった。それ故に【恩方】の情報が手に入ったらまず彼が呼ばれるのだ。

騎士団や【傷の戦士団】の面々が懸命な捜索をしているにも関わらず、全く見つからない。降り注いだ光が多すぎるのもあるが、ガセ情報や【恩方】を名乗る偽物が続出しているのだ。


詐欺師やカルト集団等か恐れ多くも【恩方】の名を語り悪用しており、偽物はリューテス達が片っ端から放り出しているが、後から後から湧いて来る。

すでに【偽物恩方】に騙されたとの被害届も出始めているので、その対応にも頭を痛めている。

詐欺師の中には自分の尻尾を切り落としたりして、かなり手が込んだ者も多いので一般の騎士にはおいそれと簡単に判断できない。

自然と【恩方】判断はリューテスに任される事になる。

彼自身も積極的に捜索に出ている為休む暇はない。

「次から次から、ふざけやがって。この前いた奴なんて口が達者で面倒臭くて腹立ったから裸に剥いてやった。」

不機嫌に呟かれた言葉にハハハと力無く笑ったキールはフト顔を曇らせた。

「本当に、【恩方】はいらっしゃるのかな…?」
「どうしたキール?お前は恩方信奉派じゃなかったか?」

不安げに呟くキールをからかうリューテスを軽く睨みながらキールは言葉を続ける。

「別に信じていないわけじゃないよ。ただ…不安なだけだよ。君が読んだ本の症状とアルの症状が同じなら原因も同じ可能性があるからね…。」
「スマン。中途半端な情報を与えたせいで不安にさせた。」
「謝らないで。君は僕達の為に情報をくれただけだよ。」

暗い顔のキールに、確証もない中途半端な情報を伝えるのではなかったと後悔するリューテス。

「大丈夫だキール。例えアルが本に書かれていた病だろうが何だろーが【恩方】を見つければ万事オッケーだ。もし違う病気でも、ついでに【恩方】にアルを治して貰おうぜ。【恩方】に治されるなんて、アルは最高に贅沢者じゃねー?」

元気づけるように、ふざけた口調で言ったリューテスに微笑むキールだった。

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あきゅろす。
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