恩方とモフモフ
3
「何するんですかぁ!」
「さっさと行くからだ、馬鹿!父上には暫く教えない。」
「えっ?何でですか?」
「僕が魔法が見たいからだ!父上に伝えたら、すぐに連れていかれるだろ。」
先程までの冷静な姿はどこに行ったのか、白い頬を赤く染めてドーンと胸を張って答えるアル。ピンッとその黄金色の耳と尻尾が立っている。
魔法とは【恩方】が操るとされる不思議な力の事だ。その力は風を掴み、水を走り、大地を曲げることを可能にするらしい。
「魔法…魔法。何て素晴らしい…。」
「ア…アル様…。」
「とにかく、僕が魔法を堪能するまでは父上にも兄上にも秘密だ!」
貴方も実は舞い上がっていらっしゃったのですね…。キラキラと紫色の瞳を輝かせる主を見て押されたように後ずさるグラド。
「それでは暫くその殿方は当屋敷に滞在なさるのですね?」
「うわっ!マーサさん!?」
先程まで一心不乱に男を拝んでいたマーサがいつの間にか復活して、アルの横にビシッと立っていた。
「そうだ、だからくれぐれも誰にもバレ…。」
「ご安心下さい!屋敷の者総出でおもてなしをさせて頂きます!」
「いや…、だから誰にも…。」
「大丈夫ですアル様!使用人全員、生命をかけて全力で挑ませて頂きますゆえ、失礼なぞさせません!」
「秘密…。」
「皆さん!みなさぁぁぁん!準備して下さいませぇぇぇぇ!」
アルが止める暇もなく、スカートをたくし上げたマーサは叫びながら猛烈な勢いで部屋から出て行ってしまった。
「三人の…秘密…。」
「だっ大丈夫ですって、マーサさんですから、分からないように皆に上手く説明してくれますよ!」
しょんぼりと呟いたアルを励ますようにグラドがガッツポーズをした瞬間。
「「「「ええ〜!マーサさん本当ですかぁ!?」」」
屋敷中から叫び声が響いた。
「……。」
「……。」
「来るな…。」
「来ますね…。」
ドドドドと屋敷中からこの部屋に向かって走ってくる足音を聞いて、二人はポツリと呟いた。
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