[携帯モード] [URL送信]

恩方とモフモフ
2
「終わりました。頭部に軽い打撲はありますが、それ以外は怪我はありません。だからマーサさん!それ引っ込めて下さい!」

真後ろでフライパンをまるでテニス選手のように構えたマーサに涙目で請願するグラド。

さっきはマジで死ぬかと思った。

診察を終えたグラドの脇を抜けて、真剣な顔でアルは男を覗き込む。

「意外と僕達と同じなんだな…。」

それが男を見たアルの感想だった。耳が見たこともない形をしている事と尻尾がない以外は、どこにでもいそうな外見である。

「やっぱりその方は【恩方】…?」
「分からない。僕がいた丘のに流れ星と一緒に落ちてきたんだ。」
「流れ星って王宮から落ちてきたアレですか!?」
「あぁ、それにコレを見てみろ。」

アルはベッドから離れて、机の上に丁寧に布を巻いて置かれた細長い大きな荷物を持ち上げた。

それはかなり長く、背が小さいアルの背の約二倍はある。

少しバランスを崩しながらもクルクルと器用に布を解いていった。

そこから現れたのは古い木でできた杖であった。その少し黒みがかった飴色の質感から、長い間使われた物と分かる。

「これは!?」
「【恩方の杖】!?」

マーサとグラドが目を見開く。

出てきた杖の先には、布がしっかりと巻かれていた。

それは、素朴な飾り気のない赤青黒の三枚の布で、作り手は未熟だったのか所々ほつれていて穴も空いている。しかし、丁寧に丁寧に編まれて縫い跡があるそれは誰かを思って心が込められた品だと分かる。

それは、まるで伝説上に語られる【恩方】が持つ杖そのままだった。

「そのように思えるな…。その男が持っていたんだ。それとは別にこれも。」

アルが出して見せたのは三枚の布だった。繊細な青い布に無骨な赤い布、そして少しほつれた黒い布。

「これ、【三王侯】の家紋がはいっているじゃないですか!」
「そう、多分【救世の夜】に王樹に捧げられる物みたいだ。着ていた大昔の服と良い、些か出来過ぎなような気もするが、この男が伝説で僕達が語り継いできた人物である可能性は高い。」
「何て捻くれた事言ってるんですかアル様!【恩方】ですよ!【恩方】なのですよその方は!」

杖を見詰めながら冷静に分析するアルにツッコむグラド。その尻尾は興奮のあまりブンブンと動いている。
その横ではマーサが両膝を床に付けて男を拝んでいた。

「落ち着つけ二人とも。」

二人の姿に些か引き気味のアルにグラドは拳を握りながら詰め寄った。

「アル様が落ち着きすぎなんですよ!俺達はもしかしたらアイシャの歴史に残る場面に遭遇しているかもしれないのですよ!早速当主様に知らせないと!」
「待て馬鹿。」
「ヒデブ!!」

猛ダッシュで部屋から出ようとするグラドにマーサのフライパンを投げて止める。

フライパンはグラドの背中に見事に突き刺さり、グラドは海老反りのような体勢クルクル周りながら苦しんだ。

[*前へ][次へ#]

3/38ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!