恩方とモフモフ
【ベッドの上には!?】
「アル様!大事件です!なんか王城から光の柱が出て来て、しかも砕けたんです!それに町中に流れ星が落ちて、やはり復活ですよ!復活されたのですよ!」
「煩い馬鹿!病人だ病人!さっさと診ろ!」
「ウグォー!?」
祭から大興奮して帰ってきたグラドは、扉を打ち破らんばかりに屋敷に飛び込んできた。
その顔にはお面がかけられ、両手には屋台のオモチャやお菓子が入った袋を持ち、まさに祭エンジョイスタイルだった。
それが実は羨ましかったアルの怒声と爪が翻る。
アルはもんどり打つグラドの襟首を掴んで、ズルズルと引きずる。
高価な絨毯の上を引きずられながらグラドは主を見上げる。
「病人ですか?それだったら私ではなく主治医様を読んだ方が良いですよ。」
「それが出来たらそうしてる!さっさと来い!」
怒鳴りながら奥まった部屋の扉を開けて中にグラドを放り込み、自分自身も中に滑り込んだ。
中は簡素だが質の良い家具が配置されたアルの部屋だった。そこには一人の年配の使用人の女性がいた。何時もは厳しい顔が今は不安に歪んでいる。ブチ模様の耳と尻尾が心配そうに揺れている。
「アル様!」
「どうだ?」
「安らかに眠っておられます。」
「そうか。」
入って来たアルに気付いた女性は表情を明るくして二人のもとへ駆けてきた。
「一体何なんですか?マーサさん。」
「グラド!何をしていたのですか。こんなに大変な時に!」
阿呆な外見のグラドを見て眼鏡を光らせて怒るマーサ。彼女が腰に手を当てて説教を始めようとするのを片手で制して、アルはグラドをベッドへ促す。
天蓋付きベッドのカーテンは閉まっており、カーテン越しに誰かが横たわっていることが分かった。
「やっぱり、誰か倒れられたのですか!?」
「まあな、お前に見て欲しいのはコイツだ。」
そう言って閉まっていたベッドのカーテンを開いた。そこには、一人の男が寝ていた。
不思議な外見の男だ。
黒い髪を短く刈り、一部分だけ伸ばして結い上げている。その耳には凝った今風ではないデザインのピアスが沢山ついている。
髪型やピアスはファッションではなく、なにか特別な意味があるように感じる。まるで古代人のような雰囲気だ。
その体には筋肉がついていて貧弱な雰囲気ないが、かなり細身である。骨が浮き、頬はこけている。
その耳を見てグラドは目が飛び立た。
「にっモガー!」
「煩いっ!叫ぶな愚か者!」
グラドの口を塞いでキレるアル。グラドが落ち着いた事を確認して手を離した。
「ににに人間!人間じゃないですかぁ!と言うことはこのお方は、ももももしかして【恩方】!?」
「知らない。もしかしたら只の同族の者かもしれない。高所から地面に落ちたんだ。取り合えず治療してくれ。」
「イエッサー!!全力を賭けて!」
ビシイと軍人のように敬礼して男の診察を開始するグラド。その手際は素人とは思えないほど手際が良かった。
しかし、
「これが【恩方】のお肌…、ツルツルだぁ。ウヘハハハハ。あぁ、何て白い肌なんだ。ハアハア。くっ唇も柔らかい!にっ匂いも…。ヒヒヒヒ。」
彼の中では、男は【恩方】であることは確定らしい。変態的な言動に、アル達の瞳に冷気が宿る。
「…マーサ。」
「畏まりました。」
ゴイン
頭にタンコブを付けて泣きながら真面目に診察する青年と、その真後ろで片手にフライパンを持って睨み付けるマーサの姿が有った。
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