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恩方とモフモフ
【狼】
ソレが消えて行くのを眺めながら、灰色狼は剣についたタールのような液体を振り払った。

その剣は刀身も柄も塗り潰したように黒い異様な剣だった。周りの光を吸収しているように、光沢は一切ない。

「陛下。」
「やはり、【魔剣】が一本しかないと手間がかかる。状況は?」
「はっ!死者はございませんが、ヤンが黒禍を受けました。」

背後の人物の言葉に灰色狼が振り返ると、そこには仲間に片手に包帯を巻かれる若い青年がいた。

明るい茶色の毛並みと瞳をした青年はまだ若く、周りの戦士と比べたら幼いと言って良い顔立ちをしていた。

いつもなら明るく笑っている青年は、包帯を巻かれながらカタカタと震えていた。ボサボサの尻尾は丸められて足の間に入っている。

「会場に残した影からの報告ですが、どうやら【君】の復活は無事になされたようです。ですから…、どうか。」
「私に指示をする必要はない。」
「申し訳ありません。」

頭を下げる部下を残して、灰色狼はヤンと呼ばれる青年のもとへ足を進める。

「ヤン。」
「へっ陛下、俺…俺。申し訳ありません!」

灰色狼に気付いたヤンは、地面に頭をこすりつけて詫びる。その首筋に灰色狼は無言で剣を押し当てる。

ビクンと体を震わせるヤン。体を強張らせながらヤンは怯えて丸まろうとする体を伸ばして、首を灰色狼に差し出した。

「戦えるか?」
「…っ!…はい。」

力強く返事をした青年に応えるように、黒い刀身が離される。

「喜べ。【君】が目覚められた。助かる可能性があるお前を殺したりはせぬ。この国では手駒は限られているからな…。」
「…は…はい!」
「しかし、間に合わなかった時は…。」

再び希望を取り戻したヤンに灰色狼は再び告げる。
頭を上げたヤンは冷徹な片目に見詰められる。

「その時は吾自ら殺してやる。」

ヤンは泣きそうな顔をして、再び頭を下げた。

「ありがとうございます。陛下。」

灰色狼はいつの間にか後ろに整列した、黒い軍服に身を包む狼達に鋭く告げる。

「狼よ鼻を使え。早き四ツ足を駆れ。【君】を猫より早く探し出せ。【君】に伝えるのは我等狼だ。」
「はっ!」

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