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恩方とモフモフ
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【王宮内王樹庭】

王家族の居住スペースよりも奥まった場所に王樹の庭はあった。

白亜の壁に囲まれた庭は一見するとまるで森のように木々が生い茂り、清らかな空気に満ちていた。

かって王樹は森の最奥に鎮座していたらしいが、【片耳の治世王】が城を建てた際に、いつの間にか森からこの場所に移動していたらしい。

いつもは森番のみが立ち入る静かな庭は、賑やかな声が満ちていた。

この晩ばかりは高位の貴族達も森に入る事を許される。庭の中に作られた野外パーティー会場では着飾った貴婦人がコロコロと鈴の音のような声で笑い、勲章を身につけた貴族が酒を酌み交わしていた。

立食パーティー会場にはリューテスも居た。

艶やかな黒髪をオールバックにして王子の正装に身を包んだ彼の姿は貴公子然として会場の中でも輝いていた。

脇に控える同じく正装に身を包んだキールの姿も合間って、会場中の女性達の目線を集めていた。

「ハァー、マジでアル来ねーし…。」
「反省しなさい。」
「正装したアル綺麗だったろーにな。あーあー。」

情けない言葉にイロイロ台なしである。

ブチブチと文句を良いながら酒を飲んでいるリューテスに苦笑しながら、キールはツマミになりそうな物をよそって運んでいた。

「仕方ない。今夜はお前で我慢すっか。」
「ハイハイ。」

不満げなリューテスの言葉を軽く受け流してキールも料理を口にする。

っと、その時。

あれ程賑やかに騒いでいた人々が急に静かになった。扇で口元を隠した貴婦人や眉をしかめる貴族達が見つめる先には、黒い一団がパーティー会場に入って来る所だった。

華やかな貴族達や猫人の将校とは明らかに雰囲気が違っていた。

その一団は墨を流したように黒い詰め襟の軍服に身を包み、黒い軍靴が地面を踏み締める音が響いた。

その体から生えるのは狼の耳と尻尾。殺伐とした雰囲気を纏う一団は真っ直ぐアイシャ王のもとへ進んで行く。

誰かが狼と呟いた。

「おっ!セオボルドの王様のご登場だ。」

それを見たリューテスが瞳を輝かせて一団の中でも最も威厳を発している男を見詰めた。

長身のリューテスを遥かに越える逞しい体躯に豪華な軍服を纏った男は、長い灰色の髪をオールバックにしている。その鳶色の瞳は鋭く左目は眼帯に覆われていた、整った顔は冷徹な雰囲気を纏い近寄りがたいが魅力的な男性であった。

顔や体に幾重にも刻まれた傷は歴戦の勇者であることを伺わせられる。

彼こそが狼の国セオボルドの若き現国王シングである。

セオボルドの国王はパーティー会場を無言で横切ると、アルシャ国王夫婦が居る王樹の元に開設される特別会場へ歩いて行った。

「よしっ!俺達も行くぜ!」
「あっ!リューテス!?」
グラスを置いたリューテスは、セオボルドの一団を追って走り出した。

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あきゅろす。
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