恩方とモフモフ
【祭の夜】
それが始まったのは7歳の頃だった。
僕は父上と馬に乗って町を見て回った帰り、家についた瞬間起こった。
体の中に何かが体を捩りこませて無理矢理入ってくるような激痛。肉や骨が軋み内臓が移動する。身も蓋も無く地面の上を転がり苦しんだ。
気が付くと、僕は白い病室にいて、周りで家族が泣いていた。
どうやら、医者の話では僕は一度心臓が止まったらしい。
病室にいた両親や兄上は僕が息を吹き返したことに安堵して抱きしめられた、しかし異変はここで終わった訳では無かった。
「アル…?何だいそれ…。」
恐る恐る兄上が僕の服をまくった。
見てみると僕の右腕にはドス黒い染みが広がっていた、その部分はまるで何かが潜んでいるようにドクドクと不気味に脈打っている。
「な…、何だこれは!さっきまではこんな症状はなかったぞ!」
医者が僕の腕を見て叫ぶ。母上が悲鳴を上げた。
その染みは僕達の目の前で現れたと同じように唐突に消えていった。
それ以来、僕は首都から出られなくなった。
出た瞬間に発作が起こり、またあの黒い染みに侵食されるからだ。
首都にいても発作は留まらない。原因不明なそれはいつも唐突に僕を襲う。
分樹の傍にいる時は発作が起こりにくい事に気が付くと、出来る限り分樹の傍にいるようにした。
しかし、発作は確実に起こった。
その度に現れては消える黒い染みの範囲は広がっていった。最近では、染みは右半身全てと左胸を覆っていた。
丘の上の分樹にもたれ掛かって膝を抱えて座り込んだアルは、昔の事を考えて溜息をついていた。
あんな事言わなければ良かった。
アルは寂しく眼下の町を見詰めていた。煌々と輝いている町は祭に湧き、時々花火が上がっている。ここまで賑やかな歓声が響いてきた。
ここは首都の中心部から外れた公園にある丘だ。
人の姿はない。
本当はアルは祭に行きたかった。幼い頃から色とりどりの布が翻るこの祭が大好きだったからだ。
だが、彼は自分が言った言葉を違えるような性格ではなかった。律義な彼は祭に行きたい気持ちを抑えて、こうして一人寂しく賑やかな祭の様子を眺めていた。
ちなみにグラドはせめて祭だけでも!と一人で祭に行っている。
だから今はアル一人だけである。仕えの者は下に待たせている。
祭の晩に一人っきり。
猛烈に寂しい。
「くそ!これもそれも全てアイツのせいだ!」
リューテスの馬鹿!色狂い!と悪態をつきながら寂しさを紛らわすようにアルは地面の草をブチブチと引き抜き始めた。
【救世の夜】まであともう少し。
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