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恩方とモフモフ
【当日の夕方】
いつも以上に猫人の国アルシャの首都 アルシャスは賑わっていた。

なにせ今夜は五百年目の復活祭。

もしかしたら【恩方】が復活するかも知れないのだ。祭り当日はいつも、かなりの賑わいを見せる首都であったが、今回はザワザワと人々が囁き一種異様な熱気が町を包んでいた。

それを城の窓から眺めているのはこの国の王子リューテス。

レンの直系の子孫で始祖と同じツヤツヤとした光沢でまるで夜空のような美しい黒い毛並みをしている。その瞳は男らしく涼やかな赤い瞳であり、精悍な顔立ちに甘い口元。逞しい体つきは服越しにでも分かる。耳はスラリとした曲線を描き、短めの尻尾も軽快に動く。

見るからに活力に満ち溢れた快活な若者である。

「おーおー、皆様はしゃいじゃって。」
「そんな事言うんじゃないぞ。今晩は特に大切な夜なんだ。君も気を引き締めなきゃいけないよ。」

リューテスの後ろから咎める様に声をかけたのは、この度彼の部下になったアルの兄であるキールである。

後ろに一つに纏めた美しい金髪や、優しげな紫色の瞳はアルと非常に似ており、やはり兄弟と思わせるものがあった。しかし、少しキツメの印象を与える弟は違い、彼は日向ぼっこ中の猫のような優しくて暖かい雰囲気に包まれていた。

今も、美しい柳眉を上げてリューテスを睨んでいるが、全く怖くない。

これが評議会の時には鋭い弁舌で自分勝手な貴族を追い詰めていくことに定評がある人物と同人物であるとは思えない。

リューテスは、その男らしい口元を歪めて笑った。

「ああ、キールは恩方派だったか?よくもまぁ五百年前の伝説上の人物にそこまで敬意を払えるなー?」
「恩方がいることは事実だよ。陛下も一度お会いになって要るだろう?」
「あぁ、暗殺未遂の時か?薬にやられた時に見た只の幻覚だろ?」
「そんなことはないよ。あの時の陛下の回復は異常だった。恩方が奇跡を起こしたとした考えらない。」

ヘイヘイと面倒くさそうに返事をするリューテス。

暗殺未遂とは、まだ彼の父である現国王が若かった時、当時敵対していた国に暗殺者を送られて死に掛けた時である。

その時、病床につき死を待つだけだった彼の元に光葉を纏ってフードを深く被った人物が訪れその病を直したという。その者は【恩方】の証である、【三王侯】に送られた赤青黒の三枚の布を巻きつけた杖を持っていたらしい。

「それよりも、今夜は狼が来るらしいぞ?俺はそっちに興味があるねぇ。」
「狼が?」

穏やかであったキールの瞳が鋭くなる。

「どうやら、友好を深める為にアルシャにとって重要な今回の祭事に参加したいんだと。一ヶ月前から親父に打診してきたらしいぞ?しかも王様直々のお出ましだ。」
「【恩方】に許された身であるにも関わらず、ずうずうしいにも程があるね。」
「まぁそう言ってやんなよ。あいつらも迷信に色々苦労してんだぜ?」

その一言に、だから迷信ではないと苦情を言ったキールであったが、リューテスの言葉には同意した。

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あきゅろす。
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