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恩方とモフモフ
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だが、この少年。

あまり信心深い性格とは言えず、創国記でさえも王族や貴族が権威付けの為に作った作り話とさえ思っている節さえある。その為に神聖な祭りに有難みなど毛ほども感じていなかった。

だが、いつもなら見た目の割りに祭り好きな彼だったら使用人であるグラドと引き連れて復活祭に出て出し物に興じるのだが、明日の復活祭にだけは行けない理由があった。

「そんなに殿下に会うのがお嫌ですか?」
「フン!あんな下品な奴に会うなんて真っ平だ!」
「そんなに根に持たないでくださいよー。たかがキスされたくらいでー。」
「誰が誰と口付けしただと!」
「へ?だからアル様とリューテス様が・・・。」
「煩いボケが!」

バリっ!

「痛ってー!」

名前を口にした瞬間。ブワッと尻尾を膨らませたアルがグラド青年の顔を思いっきり引っかく。

顔を押さえた青年はゴロゴロとフカフカのカーペットの上を転がりまわる。

「フー!」

立ち上がって尻尾と耳の毛を逆立てて唸っているアルからは怒気が立ち上っている。愛らしい唇からギラリと牙が除いた。

「ああ忌々しい忌々しい!せっかく兄上と一ヶ月ぶりに再会できたのにあの馬鹿王子!いきなり僕にあのような汚らわしいことをしやがって!兄上にも笑われるし!父上なんて婚約者にでもなるかなどと戯れごとを言ったんだぞ!」
「仕方ないですよ。リューテス様は虎の国から五年ぶりにお帰りになられて、久しぶりのアル様にテンション上がっちゃったんですよ。」
「知るかぁ!あの馬鹿、留学していくらかはマシになったと思えば、益々酷くなっているじゃないか!従兄弟といえども勘弁ならん!」
「まぁ、レベルアップされておられましたね。」
「祭りに出ればアイツに会うことになるんだ!僕は絶対行かないぞ!民の祭りにもだ!」
「ええー。そんなぁ。」

ビシッと眼下のグランに指を突きつけてアルは宣言した。

「あの変態のことだから神木の下で待ち伏せして告白でもしてきそうだからな!僕は明日は絶対祭りに参加しない!」

復活祭には一つ伝説がある。かって【恩方】が恋人との仲を取り持った事にあやかり、神木の木下で口付けを交わすと結ばれるという伝説である。

これをすると実質的に婚姻を結んだと周りから認識される。

ショボーンと項垂れて、耳を垂れさすグランを見て少し胸が痛むアルだったが、今回の決意を変える事はなかった。

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あきゅろす。
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