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恩方とモフモフ
【祭の前】
「以上が我々猫人が敬愛する【恩方】の伝説なのですよアル様!」

黒板を前に熱く語るのは、黒い使用人服を着て黒髪を短く切った平凡な顔立ちの猫人の青年である。

興奮して話している青年の黒毛の尻尾と猫耳が彼の興奮を表すように激しく動いている。

青年は顔を上気させて、一枚の絵画を捧げ持って目の前の主に見せた。

そこにはフードを被った人物と戯れる、三人の猫人の少年達が描かれていた。

青年の前に座ってそれを面倒くさそうに見ているのは、とても華美な少年だった。

金色のふわふわの髪は丁寧に細くした綿菓子のようで、その大きな切れ長の瞳は夕暮れのような紫色。華奢な体にはフリルがふんだんに使われた貴族服に身を包んでいる。

少年は豪奢なソファーにだらしなく座りながら馬鹿にしたように笑った。

「ふん!下らん。どうせ王族が箔づけの為に流した作り話だろう。」
「何をおっしゃっているのですか!アル様のご先祖であるレン様もこの【三王侯】のお一人ではありませんか!」
「あー煩い!」

アルと呼ばれた少年の馬鹿にした口調に青年は拳を握って反論する。あまりの煩さに耳を可憐な両手で塞いで顔をひそめるアル。

「明日の復活祭はなんと!恩方の復活されると言われている五百年目の【救世の夜】なのです!だーかーらー行きましょう!」
「何度【恩方】の説明されようとも嫌なものは嫌だ!」

そう、青年グラドが先程から猫人だったら赤ん坊でも知っている、いや、この大陸の住人だったら誰でも知っている聖人伝説を語っているのは明日開催される復活祭にどうにか行きたいが為だ。

復活祭とは、【恩方】が復活されることを願い彼の方が王樹に身を捧げた【救世の夜】に行われる祭りである。この晩に首都の住人達は、首都中に生えている王樹の分樹に自らが用意した布を結びつけて感謝の気持ちを伝える。

分樹とは王宮にある王樹が首都中に張り巡らした根から生えてくる王樹の分身ともいえる神木の事だ。

王樹自身に布を捧げることが出来るのは、王族や一部の将校、目覚しい功績を立てた者のみである。一般人には平常時にさえ【恩方】が眠るとされる王樹を見ることも出来ない。

今それを煩そうに聞いているアルは父が王の弟という王族に連なる生まれなのである。だから明日の復活祭に猫人なら一度は夢に見る、王樹に参ることが可能な身分なのだ。

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あきゅろす。
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