短編小説
4※
仕事が終わり、アパートの自室にて夕食をすました私は、薬を服用する。
毎月、実家を代々担当している医者から送られて来る薬は、粉薬が三つに時代錯誤な丸薬が二つ。
粉薬をサラサラと口の中に流し込む。細かい粉末は、口の粘膜に纏わり付き脳天を突き抜けるような苦味がはしる。
水を飲んでも、苦味は中々治まらない。不快感にも似た苦味は、食道から舌の奥までをジクジクと覆っている。
「ア゛ア゛ー!」
思わず親父クサイ声が出る。コップを置いた私は、キツイ臭いの残りの丸薬を睨み付ける。粉薬は、私の特殊な体のバランスを整える為の薬だ。だが、机の上の油紙の上に置かれた丸薬は何の薬か知らない。
御祖母様に命じられるまま幼少期から飲んでいるコレは、私を浄化する為の物らしい。
瞳を閉じて丸薬を口にする。舌先に触れる前にコップを口につけて水を注ぎ、喉奥に飲み込んだ。
コクン
水が流れ、丸い薬が喉を通って腹の中に落ちる。私はジンワリ暖かくなった腹を押さえる。不思議な事に、丸薬を飲むと毎回腹が暖かくなる。直ぐに治まるが不快だ。
粉薬と違って甘い味がする丸薬。
私は、この丸薬を飲むのが一番嫌いだ。
暫く耐えて治るのを待つと、私は服を脱ぎ浴室に向かった。早く、この感覚を洗い流したかった。
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ザアァァァァ
看守に格安で貸し出される市営のアパートは、かなり安普請だ。浴室も例外ではない。
安っぽい水色のタイルに、棺桶のような小さな浴槽。無骨な金属製のシャワーヘッドの下に立ち、温度を確認してから湯を浴びる。
以前、ボイラーが壊れて冷水が出た事があったからだ。あの時はアパートの中の看守達が、管理人に怒りの声を浴びせていた。
熱い湯を浴びながら、今日の事を思い出す。今日も彼の体に触れられた…。
殴る時に触れた彼の肌の熱い体温。口の中の血の味を思い出した。
ズクン
疼きが発生する。
シャワーを頭から浴びながら、白い壁に両手を着いた。
「っ……」
青いタイルの上に膝をつく。息が荒くなり、緊張する下肢が自然と熱くなる。
昼間に我慢していた分、体の疼きが重い…。
「うく…」
指を立ち上がった性器に絡ませる。産まれる快感に小さく声が漏れた。
快感に促されるように、二、三度擦った後、更に奥に手を伸ばす。
指先にヌルリとした感触が伝わる。指を亀裂にそって前後に動かし、その上に指を動かす。
クチュと小さな音がした気がした。
羞恥心に顔が赤く染まり、口から期待の吐息が出る。
「ぁ…っ…ん」
指を進めて、男性器とは違う突起に指が引っ掛かる。そのまま親指を押し付ければ、体がビクンと強張る。ヌメリ気が増す。
「は…ぁ…ふ」
唇を噛みながら指を動かしてこねる。突き抜けるような感覚に耐えながら、切れ目を指でなぞると浅ましくヌメルその場所。
中に指は入れない、入れてはいけない。息が荒い、泣き声みたいな声に嫌悪感がつのる。
気持ち悪い体。
そう、私は両性だ。
男でもあり女でもある不自然な存在。一見したら私は男性に見えるだろう。
しかし、体毛は薄いし声も甲高い。いくら体を鍛え筋肉をつけても、体の線は丸みを帯びる。
両親は死に、幼い頃から厳格な祖母の下で育てられた。祖母は私の体の異常さを教えてくれ、厳しく躾られた。
汚らわしい存在の私は、他人に迷惑をかけないように心掛けないといけない。常に清い事を念頭にして、自分の快楽を楽しんではいけない。他人の為に動け、私情は殺せ。
奇形の出来損ないの私には、国に仕えて役に立つ道しかない。
そして、決して誰かを愛してはいけない。誰にも触れさしてはいけないし、誰とも愛し合ってはいけない。
一番大切な事。
股を誰にも開いてはいけない。
『いいかい、決して誰とも愛し合ってはいけないよ。その汚らわしい体を曝して、家名に傷をつけてはいけないよ。もし誰かに体を許せば、また誰かを傷付ける事になるよ』
「ごめんなさい御祖母様ごめんなさいごめんなさい」
泣きながら祖母に謝る。汚らわしい欲に負けてしまう自分の浅はかさに吐き気がする。目をつぶった視界に彼が浮かぶ。
酷い事をして、ごめんなさい酒天童子。
小さく呟いた瞬間、体が一層震えてビクビク小さく痙攣する。
「あっ…は…は…」
体を縮めて指を噛んで声を抑える。それでも響く声に情けなくなり、耳を塞ぎたくなる。タイルの上に、ペタンと座って息を整える。タイルの角に粘膜を垂らしてぬかるむソコが擦れて、体がヒクンと震えた。
「ハハハハ…」
薄っぺらい笑い声が浴室に響く。あれだけ殴っていて、何がゴメンナサイだ…。馬鹿馬鹿しくて涙が出る。
ザーザー響くシャワーの音が雨音のように響き、私の声を隠してくれる。
ごめんなさい
ごめんなさい
謝るから許してなんて言わない
自己満足の為に謝らせてくれ
貴方に執着する浅ましい私を怨んでくれて良い
私は
私は
貴方の事を…
嗚呼…、今日も眠れない
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