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短編小説

静かに発せられた声に、その場に居た者達は震えが止まらなかった。声には黄泉の深淵よりも深く、地獄の業火よりも激しい怒りが篭められていたからだ。

しかし、それに気付かないカイルは、ホッとしたように安堵の溜息を吐いた。

「そうだよ!やっと理解したか!」
「嗚呼、麿は【理解】した。おいで。」

空中から降りて両手を広げて優しい声をカイルにかけるテンジョウ。カイルは満足そうに彼の痩躯に抱き着き、抱き抱えられる。

「さあ!俺の天使になったんだから、顔を見せてくれよ!」

そう言ったカイルは、遠慮なくテンジョウの顔を隠す布を外した。

出て来たのは、カイルが想像したような美貌では無かった。

小さなオチョボ口に、蛇のような切れ長な瞳。それらが瓜実型の輪郭に納まっている。優雅で整ってはいるが、いわゆる平安顔で美形ではない。

普段は穏やかであろう瞳は、今は爛々と輝いて吊り上がり、真珠のような歯を剥き出しにしていた。

カイルから悲鳴が上がる。

「ヒイイ!」
「麿の顔が恐ろしいかえ?死への旅路への駄賃として見た顔が、こんな平凡顔で残念じゃのぉ。」

まるで獣のように、獰猛に笑う天使がそこにいた。

そもそも天使は神の使いとして、力にて悪魔を調伏して力で捩伏せる事も多数ある。天使とは、人間が思っているような儚い清らかな存在ではない。

時に神の先兵として剣をとり、血に濡れて戦う荒々しい神の猟犬なのだ。

怒り狂う天使は、内部から神気を溢れだし、神々しい美しさで恐ろしかった。

「麿の聖嫁を殺し、神鏡を私利私欲のままに使い、己の罪を悔いる頭もないならば!せめて、その命をもって神鏡を浄化するが良い!」

高らかに叫んだテンジョウが、カイルの細い体を床の上に投げ捨てる。固い床に叩き付けられたカイルは這いつくばって逃げようとするが、テンジョウは容赦なく背中を踏み付けて許さない。

踏まれた背中から、メキメキと音がした。

「あっ…あっ…あぁ!」

不様な悲鳴を上げるカイルを見下ろしたテンジョウは、手を天に差し上げた。すると、頭上のステンドグラスが割れて、クルクルと軽やかに彼の周りを舞った。

鮮やかな色彩を纏ったガラスの尖端が一斉にカイルを向く。

恐ろしい光景の筈なのに、その美しさに王子達と兵士達が息を飲む。

無数の硝子片の極彩色の光に照らされて、神々しい二対の白翼を広げる天使。目には激しい怒りの為に、煌々とした輝きが溢れていた。

まるで、一枚の絵画。いや、伝説の一場面のようだった。

「その身を持って、償いとするがよい。」

冷徹に告げられた言葉と同時に、硝子片がカイルへと向かう。

しかし、神の使徒の断罪の刃は、愚かな少年の命を奪わなかった。

テンジョウは、カイルを庇う少年を信じられない物を見るように眺めていた。

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