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短編小説
魔法使いの昼寝
ヒック
ヒック
ヒック

泣き声が聞こえる。
何ですか?○○○?
また泣いてるのか?弱虫め!

やれやれ、○○○はいつも泣いてばかりだな。うるせーよ。

嗚呼…、泣くな泣くな。

仕方ないですね、煩くて欝陶しいから歌をうたって差し上げましょう。有り難く思いな糞ガキ。

だから、頑張って治療しましょうね?
治ったら友達と遊ぶんでしょ?


早く○○○の元気な姿を見たいですね。

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スーハー
スーハー

目を覚ますと目の前には木の肌が見えた。

何処に行っても現れる馬鹿お…阿呆王…敬愛する偉大なる殿下から身を隠す為に見付けた木のウロにて、昼寝していました。

スーハー
スーハー

だがしかし、私の腰にしがみ着いてるのは何なんでしょうね?

スーハー
スーハー

「取り敢えず殿下?私の匂いを嗅ぐのを止めて頂けませんかな?」


私の腰にしがみ着いているガキの頭をグリグリ肘で押しますが、美しいマクシミリアン殿下は果敢にも私の腰に顔を押し付けてきます。

クンクン私の匂いを嗅いでいる。

うわー息が生暖かーい 。

とうとう変態行為も此処まで来たか変態王子…。取り敢えず…ウゼェェェェ!何でタダで匂い嗅いでんだよ馬鹿殿下!金よこせや!慰謝料合わせて国家予算程度の金額を請求するわ!

青筋を浮かべながら蹴り飛ばそうとした瞬間。

「どうしました殿下?」

ヒック
ヒック

阿呆殿下は泣いていた。

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殿下は、今より小さな時に初めて父親の剣を握らせて貰った。

滑る白刃
断ち切られる肌と肉
滴る赤い血
焼ける痛み
刃をつたう赤

手を滑らした殿下は剣で腕を切った。父が咄嗟に庇ったから大事にはならず、縫う必要はなかったが、その恐怖は幼い心に刻まれた。

刃は怖い
剣は怖い
戦いは怖い
それを生業にする騎士が怖い

剣術は王になる為には必要不可欠だとは分かっている。

だけど駄目だった…。剣を目にする度に震える。

赤い色を思い出す。

病に倒れて、段々体が動かなくなって剣術を習わなくなって嬉しかった。でも、回復した今は再び剣術を学ばなければいけなかった。

今日は、やる気のない殿下を王が激しく叱責したのだ。叩きあげの軍人でもある彼は、訓練を蔑ろにする息子を甘やかす人物ではないのだろう。

殿下は今はまだ病の後遺症で喋れないので、全て筆談で教えられた。紙に書かれた内容を読みながら、私は殿下の手の平を見て唇を噛む。

この小さな手に剣を握るのか……。私は殿下の手の平を見る。

剣……忌ま忌ましい刃。他者を傷付ける道具。

「握らなくて良いんですよ、あんな物……」
「?」
「あんな醜い物は貴方に似合いません。剣を握る意味を感じないなら止めなさい」

私は殿下に囁いた。


そう、あんな事をする物なんて。持つ意味を感じる事が出来ないなら持たない方が良い。危険な物だから。

剣など不要だ。
剣に誇りを宿す騎士も不要だ。

あの日の赤い剣が蘇る。
倒れる子供達の姿が蘇る。
仲間達の絶叫が蘇る。
必死に心肺蘇生を試みる時の感触。
冷たい華奢な胸。

私は自分の手を見る。

「殿下……何で剣などがあるんでしょうかね?」

私達は、あの日から魔法が使えない…。

嗚呼…、また烏達と空を飛びたいですねぇ。

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あきゅろす。
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