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短編小説
5
青年は夕太をと式場から連れ出した。ギャァギャァ後ろが煩かったか無視する。

中学生とは思えない程軽い華奢な体を抱き上げると、夕太はポカンと青年を見上げてきた。。夕太にとっては見ず知らずの他人の筈だが、不思議な事に抵抗はされかった。

無駄かもしれないが、青年は安心させるように笑いかけた。

人を掻き分けて屋敷を出ようとすると、青年の目の前に少年が立ち塞がった。

「待て!夕太様をどうするつもりだ!」

黒い礼服に身を包んだ切れ長の目の少年は青年を見上げて睨みつけてくる。後ろからも騒ぎを聞き付けて人が追いついてくる。

「静、お通しなさい。」
「なっ何でですか山野辺さん!?夕太様が!」
「申し訳ありません、伊東様。」
「こちらこそ後は任せます。」

後から来た山野辺が青年を捕らえようとした人々を下がらせる。山野辺の後ろには三条がいて、愉快そうに青年を眺めていた。

少年の詰問する声を背後に、青年は車に乗って屋敷を後にした。

暫く車を走らせ青年は、助手席に座る夕太に視線を向けた。

夕太は瞬きすることなく、青年を見上げていた。その顔には期待に溢れていた。
「あっあの!?」
「ちょっと待って。」

思い切って話しかけた夕太を制止した青年は、車を山道の駐車スペースに止める。サイドブレーキを引いた青年は夕太に向き直った。サングラスの奥の瞳に見つめられて、少年はシートベルトを掴んでビクリと体を震わせた。

しかし、再び言葉を続ける。

「お父さん…、ですか…?」
「……嫌、違う。」

途端、少年の瞳に失望が浮かぶ。

「俺の名前は伊東清孝(イトウキヨタカ)。君の父親である伊東司郎の息子だ。」
「え?」
「つまり、君の兄と言うことになる。」
「お兄ちゃん?」

思いもよらない返答に夕太は大きな瞳を見開く。端正な顔に浮かぶヒョウキンな表情に、伊東はプッと吹き出した。

「父さんと間違えるとは酷いな。あんなに年はくってない。」
「あ…ごめんなさい。」
「いいよ。老け顔でなれてるから。」

ハハハと笑った伊東は夕太に向き直った。

「驚かせてすまないな。俺は山野辺さんから、親戚達の代わりに君を預かって後見人の一人になるように頼まれたんだ。本当は父さんが頼まれる筈だったけど、父さんは昨年死んでしまい俺に話が来た。」
「そっ…そんな、お父さんも死んじゃったの?」
「あぁ」

少年は再び俯く。
しかし、その瞳から涙は出ない。

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あきゅろす。
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