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短編小説
2
着慣れない慰問用のスーツに身を包んだのは、まだ20代前半の青年である。

パサついた長めの髪にこけた頬。肌は不健康に青白くて細い目は鋭くギラギラとした光をたたえている。

手足が長く、サングラスをして長身にスーツを着込んだ様子は、まるで死に神か蛇の化身のようだった。

彼が受け付けに入ると、上流階級の客ばかりの中に一人安物のスーツでサングラスを身につけた彼は、途端に周りから訝しげな目線を向けられた。

それを無視した青年は、葬式の会場に入り自分を此処に呼んだ人物を見付けた。

「山野辺さん。」
「あぁぁ、来てくれたのですね!」

泣きそうな顔をして立ちすくんでいた気弱な中年の男は、青年を見ると安堵のあまり泣いてしまった。

「いきなりお電話して申し訳ありません。もう、あなたにしか頼るしかないのです。」
「……まだ引き取ると決めた訳じゃありませんよ。」

青年は中年の横に立つと、喜色満面な様子を隠そうともしない中年に気まずそうに応えた。

「分かっています。突然ですものね。最低でも引き取るとこの場で言って下されば良いのです。その後は私達が処理をしますので。」
「分かりました。」
「ありがとうございます。どうか坊ちゃまをお助け下さい。」

この家の使用人長である中年=山野辺は深く頭を下げた。

事故により主人とその一人娘が死んだ後、当然その遺産の行き先に注目が集まった。

しかし、またまだ現役で経済界の前線で戦っていた主人に抜かりはなかった。

自分が唐突に死亡した際の遺言書を残してあり、会社の跡は彼が育てた後継者が運営を滞りなく受け継いだ。

膨大な遺産を受け継ぐことになった、未婚の母であった娘の息子には信頼ある使用人達や弁護士がつき、その身に不安はないはずだった。

主人の兄弟の親類が現れるまでは…。

主人の生前から群がり少しでも甘い汁を吸おうと試みて毎度主人に叩き出されていた彼等は、吸えなかった甘い汁を主人亡き今、存分に吸おうと躍起になっていた。

祖父と母を亡くして悲しみにくれる少年を手に入れて。

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