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短編小説

小さいうめき声が響く寝室。

そんな中に一人の少年が現れた。ズルズルと大きな縫いぐるみを引きずったマクシミリアン王子は、トテトテと魔法使いのいる毛布に近寄った。

魔法使いの枕元に座った彼は縫いぐるみの腹の中に手を突っ込んだ。そこはポケットになっているようで、中からスケッチ帳とクレヨンが出て来た。

体操座りをした王子はスケッチ帳にクレヨンを走らせる。

時々鼻を啜り、涙を服の裾で拭きながら絵を描く。

王子がフト顔を上げると、【彼】が居た。蛍のように淡く光り輝いている【彼】にスケッチを見せると【彼】は微笑み頷いた。

マクシミリアンが魔法使いを見ると、うめき声は出てなく健やかな寝息が響いていた。

【ゴメンね辛い事させて】

【彼】の言葉にフルフルと首を振るマクシミリアン。王子にとっては、魔法使いは大切な人だ。

毎晩、彼の悪夢を紙面に移す作業は辛くない。だがしかし…。

マクシミリアンは【彼】に手を差し延べる。

魔法使いの悪夢の中の光景と、【彼】の穏やかな笑顔が重なる。

実体のない【彼】の胸を撫でる。すると、【彼】は哀しそうに笑った。

【大丈夫…僕はもう痛くないよ…それよりも、先生が痛いんだ】

【彼】の桃色の瞳からポロポロと光りの粒が溢れて消えた。アワアワと慌てる王子を苦笑しながら撫でようとするが、彼の手はすり抜けてしまう。

【先生…先生…泣かないで先生…。先生達が泣くと僕達も哀しいよ…、誰か先生を助けて】

儚く啜り泣く【彼】だが、自信満々に手を上げて立候補する王子をガン無視している所を見ると、結構図太い神経をしているようだった。

どさくさに紛れた王子がハアハア言いながら魔法使いの匂いを嗅ごうとして、少年は王子に踵落としをくらわせていた。

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あきゅろす。
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