[携帯モード] [URL送信]

短編小説
閑話【夢之中】
大きな桜の木が空を桜色に染めている。

山の中にある大きな日本家屋。見る限りでは地方名家の屋敷らしい。

その縁側に一人の子供がいた。頭に花束を模した簪を挿し、ピンク色の振り袖を着た子供は恐らく八歳程度だ。

子供はニコニコ笑いながら桜餅を食べている。

子供は庭先で宴会をしている大人達や、追いかけっこをしている友人達を見つめていた。

友人達に誘われ、縁側を下りた子供は、友人と一緒に歓声を上げながら走り回った。

----------------------------

アマは楽しくて、笑いながら振袖のまま土まみれになる。

すると大好きな母様に凄い形相で叱られる。泣きながら父様に抱き着くと、父様は笑いながら母様を宥めた。

ションボリしながら服を着替えて落ち込んでいたら、御祖母様が呼んで母様はもう怒ってないよと言って頭を撫でてくれた。

御祖母様は優しくて綺麗で大好き。私の頭の事も大丈夫と言ってくれるの。アマが、怖いお山のお化けに悪戯されても追い払ってくれるの。

御祖母様はアマの事を【かみのこ】と呼んでくれる。良く分からないけど、御祖母様が凄いと言ってくれるから鼻高々なの。

大きくなったら、御祖母様と母様と御役目をするんだ。

その後、御祖母様と手を繋いで、また花見に参加した。皆と遊んでいたら、お酒臭い父様が「嫁にも婿にもしないぞぉぉぉ!可愛いお嫁さん捕まえてきなさい」と言いながら抱き着いてきた。

髭がジョリジョリして痛い!

笑っていたら、おじさん達に皆と一緒にジョリジョリされて悲鳴をあげた。最後には、おじさん達は母様達と御祖母様達に平手打ちされて泣いていた。

【さけはのんでものまれるな】と御祖母様がアマ達に教えてくれた。アマ達は確かにと思って頷いた。

父様に教えてあげたら、何でか落ち込まれた。

その後、皆とお風呂に入って、母様に子守唄を歌ってもらった。

鬼さんが皆と仲良く遊ぶ歌。

「アマと一緒だね」

と笑うと、母様が嬉しそうに笑った。

「ええ、一緒よ」

頭を撫でられるとポカポカして、暖かくなった。私は母様に抱き着くと眠りについた。

そんな幸せな日々が次々に周りを過ぎ去る。

母様に抱かれて乳を吸っていた私
木から落ちて慌てふためく父様
七五三の日に私に袴か振り袖を着させるかで喧嘩する両親
折り紙が折れ無くて癇癪を起こした私を叱る御祖母様

知らない…忘れていた光景を見ていると、後ろから話し掛けられた。

振り向くと、そこには薄汚れた鼠のような婆がいた。婆は優しく笑っていた。

「此処は、昔アンタのいた場所だよ。アンタは愛されていたんだ。見てみな皆の笑顔を、忘れさせられているかもしれないが、アンタには誰かを愛して愛される資格がちゃんとあるんだ。その為に何かする資格もあるんだよ。だから言いなりになって自分を捩曲げる必要はないんだ」

膝を抱えて座っていた私は婆を見上げる。幸せな光景に涙が出そうだった。けど…、私は首を振る。

「私には、そんな資格なんてない何故なら…」

ザワリと動く

先程まで笑っていた周りが静まる。両親は大地に寝そべっていた。他の人々もそうだ。

血を吐き、苦悶の表情で倒れている。

「私を一番愛してくれる人達を私は殺した。罪深い私は誰かを愛す事は出来ない。してはいけない、さすれば私は彼を殺してしまう。だから、私は彼に見てもらうには憎んで貰うしかない。憎み傷付ける事でしか私は彼と触れ合えないんだ。愛する事は、結果的に相手も私も苦しむことになる。だから私は愛してはいけないと、そう何度も教えたのに…。体に教え込んだのに、この子は……愚かな子ね」

婆が息をのみ、厳しい顔で睨み付けてくる。何か訳の分からない呪文を唱えてくるが、私は気にせずに言葉を思うがまま続ける。

「浅ましいこの子は愛して求めてしまった。本当に愚かな子です。私が言った事を守りさえしていれば、このように苦しむ事もなかったのに。せっかく辛い記憶を忘れさせてあげたのに、また愛を求めて欲しがるの?嗚呼…、可愛くも浅ましく愚かな子。私の娘や婿を奪いながら、自ら愛を捨てながら尚も愛を惨めに求める」

ごめんなさい御祖母様
許して下さい
もう求めないから
望まないから
ごめんなさいごめんなさい
アマを見捨てないで

「なんと憎らしいのでしょう、でも大丈夫。誰からも愛されないように、忌み子である貴方を私が守ってあげます。両親や友達殺した時のように、貴方の愛した人を貴方が殺さないように。貴方が愛した人を貴方から遠ざけましょう。悲しむ貴方を見たくない、愛しい人を殺す痛みと比べたら、愛しい人を傷付ける事くらい何でもないでしょう?

貴方は御祖母様(私)の言う通りにすれば良いの。私の憎たらしくて愛しい天乃」

嗚呼…、御祖母様は許してくれた
やっぱり御祖母様は御優しい方
アマは御祖母様の言うとうりにします

大好き御祖母様

【嬉しすぎて】涙が【止まらない】涙が喉元まで満ちて息が出来ない

嗚呼…【嬉しい】【嬉しい】【嬉しい】【嬉しい】【嬉しい】

[*前へ][次へ#]

17/59ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!