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短編小説

本日晴天早朝

見回りの為に彼の房へ赴く。憂鬱だ…同時に胸が踊る。彼の体温を感じれて、彼の体臭を感じられる。

鉄製の扉に手をかけた瞬間、違和感で眉をひそめた。勢いよく扉を開くと、金属が叩き付けられる、けたたましい音が響いた。

少年達は中央で固まっていた。彼等は私を見ると睨み付けてきた。

しかし、居る筈の彼の姿がない。

脱獄か…?いや、それはない。彼なら少年を残して自分だけ逃げる事はない。絶対ない。

自分が残り、少年達を逃がす事はあるだろうが、守る物を捨てて逃げるような男ではない。

「何があった?」

傍らの年長者の少年の襟首を掴んで引き寄せる。忌ま忌ましく睨み付けてくる少年、その首を掴み力を込める。

「グッ…」
「兄ちゃん!」
「動くな!」

他の子供達が殴り掛かってこようとしたが、私が叩き付けるように怒鳴り付けたら立ち止まった。

「言え…奴は何処にいった?」
「チッ!聞いてないのかよ…。」
「何?」

聞き返すと、少年は悔しそうに私に言い放つ。

「今朝、アンタのお仲間が酒天様を連れ去ったんだよ!」

連れ去った看守達の人相を聞いて青ざめる。担当者に無断で囚人を連れ出すのは重要な規則違反である。

それよりも、奴らは私と乱闘した看守達だ…。あいつら謹慎が終わったのか!


少年の襟首から手を離すと、房から出て走り出す。

少年達を連れ去らずに酒天童子を連れ去ったのは、恐らく私への嫌がらせだ。私が奴に執着している事を知っているから。

通路を駆け抜ける。奴らが囚人を痛め付ける場所は決まっている。

懲罰房は使用には記録が必要だから、痛め付けたいだけの奴らは使わない。

使われていない地下の貯蔵庫がある。そこで奴らは、毎回囚人を痛め付けている。外音から守る為の分厚い扉は、中の音を外に出さないのでバレない。

駆け付けて扉を開く。その時の私は鍵が掛かっていない事に対して疑問を持たなかった。ただ、彼の事が心配で心配で、何も考えずに中に飛び込んだ。

中に入って見えたのは赤色。五人の看守に囲まれてうずくまるかれ。奴らの足の隙間から見えた指は全てあらぬ方向を向いていた。苦しそうに体を屈める姿から、恐らく肋骨も折れている。何よりも…、彼の美しい瞳が…金色が左側だけ血塗れで閉ざされている。

それに見た瞬間、怒りで目の前が赤くなる。

私は!彼の体が大事だった。だから、傷付けても取り返しにならないようにした。鬼の彼なら寝れば治り、尚且つ痛みに苦しみ憔悴する程度の暴行。それは私に許された唯一の逢瀬の方法にて、彼に私を見てもらう為の手段であり目的じゃないからだ。

なのに、偉大な彼に、奴らはただの暴力を振るっている。何の感情もなく彼を傷付け、苦しめる為に殺すことすら厭わない暴行。

彼の素晴らしさを導き出す事もなく、小さな身の分際で、彼を叩きのめす快楽に沈んだ醜い姿!

「彼に触れるな!」

怒号を上げると同時に、私は警棒を振るいながら奴らを後ろから奇襲し、地に叩き伏せる。簡単に退いた奴らと彼の間に立ち塞がる。

「貴方達、自分達が何をしているか分かっているんですか?A級犯罪者である囚人を無断で連れだし暴行。謹慎や降格どころじゃない。逃亡補助や傷害罪で、貴方達自身も罪に問われます。年貢の納め時ですね?スッキリします良かったですね」

酒天童子を庇うように片手を彼の前に伸ばした私は奴らに告げる。しかし、奴らは相変わらずニヤニヤと笑いながら立ち上がり私を囲んだ。

「大丈夫だよ。アンタが黙っててくれればな?」
「ハハハ!囚人を抱きすぎて変な病気でも移されたか?黙る訳がない。もうすぐ応援が駆け付けますよ?これ以上罪が重くならないようにした方が宜しいじゃないですか?」

そう、複数がいると分かっていて馬鹿正直に一人で来る訳がない。此処に向かう前に警備の者に報告して、応援を頼んでいる。すぐに、看守や警備員がなだれ込んでくるだろう。

私が告げた瞬間、何故か奴らは我慢出来ないように笑い始めた。中には腹を押さえている者が居る。何だ?嫌な予感がして、背中に粘つく汗が流れる。

「クククク!アンタは本当に、その化け者に執心なんだな?いつものアンタなら気付いていたはずだぜ?」

私が殴った事で唇の端が切れたのか、滲んだ血を舐めながら主犯格が嘲笑った。その顔は楽しくて楽しくて仕方がないと語っていた。

周りを見渡すと、奴の仲間達はニヤニヤ笑いながら、無言で私をジッと見つめていた。

視線が私の体を這うのが分かり、不快感に体に力が入る。フト、頭の中にとある考えが浮かんだ。

私が話し掛けた警備の者は…、そういえば、いつもと違っていた。

「やっぱり友達って大切だよな〜」
「な〜」

ケラケラ笑う奴らは、扉の方へ話し掛けた。そこに誰かが居た。

扉の前にいたのは、私が救援を頼んだ筈の警備の者…。

「助けは来ないぜ」

ガタンと重い扉が閉じた。

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