裏小説
一
「マクシミリアン様!そろそろ就寝のお時間ですよ!だーかーらー、さっさとその手を離して下さい!」
「…(嫌)!」
私に宛がわれた部屋で机に向かい書き物をしている後ろでは殿下と執事殿の攻防戦…。
殿下は私が座っている椅子にかじりつき離そうと致しません。
グシャ
グオォォ!?一時間かけて書いた図形が歪んだ!?
糞ガキィィ!糞執事ィィ!テメー達が容赦なく椅子を揺らすからだ!
「殿下ぁ?さっさと寝なさい。」
「…(悲)!?…(いやいや)!」
ユラリと立ち上がり、糞ガキに告げると、殿下は私のローブの中に入って来ました。
ウゼッ!チョーウゼッ!
私はローブを外し、手際良くローブにしがみ付く殿下ごとクルクルと巻き付けます。
そして出来る殿下巻き。
「ご迷惑おかけしました魔法使い殿!」
「いえいえ。」
もう連れて来るんじゃねーぞ小僧。
殿下巻きを小脇に抱えた執事がにこやかに退室するのを見て、溜息をつく魔法使いだった。
さて、続きでも致しましょうか?この資料は今度の定例会で魔法使いの仲間に出す物なので気が抜けません。 凝った肩を解して気合いを入れ直します。
おやおや、この私が【気合い】等と言うなんて、あの方の影響ですかねぇ?
ヤガーが少し頬を赤らめていると、部屋の窓が突然開かれた。
「よう根暗!」
「窓とは主に開閉することによって室外の外気を取り入れ、室内の換気や室温の調整を行うのを目的とした家屋に設置される装置である。」
「なっなんだよ!?」
窓から顔を出した精悍な青年に平坦な声でいきなり喋り出した魔法使いに引く青年。そのまま入って来た青年に冷たい一瞥をくれてやりながら、机の上に視線を落としたままなヤガーは応える。
「いやいや、何度言っても窓から私の部屋から入って来る騎士団はもしかして窓の事を知らないのかと…。」
「知っとるわい!」
今日は非番なのか、片手でツッコミをする騎士ギュンターの服装は麻のズボンにシャツという軽装である。いつもは鎧で隠されている逞しい体つきが服越しに良く分かった。
「おっ!ローブ着てねー、珍しい。」
「殿下に取られたのですよ。」
ギュンターはヤガーを見て得したと歓声を上げる。
ヤガーは先程の事があり、今は深い藍色のインナーのみである。詰め襟でピッタリとした薄い生地で出来た一繋ぎの変わったデザインのそれは、いつもはローブに隠されたヤガーの痩身を浮き上がらせていた。
「で?何かご用ですか騎士殿。私、今忙しいのですが?」
イラついたヤガーの声に「そうそう」と手を叩くギュンター。
「昨日、迷子を探しに遺跡に行った時に見付けた魔道具なんだけどさー、俺には何に使うのか検討もつかねぇ。団長は分かるみたいだけど教えてくれねーんだよ。」
アイテム屋に売ろうとしても何か分からなければ値切られるかもしれないから教えてくれと頭を下げられて少し心引かれるヤガー。
古代文明の魔道具はヤガーにも興味がある。
「仕方ない。どれ、見せてみろ。」
椅子ごと振り向くとギュンターに向かい合ったヤガーは少し偉そうに言った。
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