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裏小説
源流一
満月が明るく、影さえ落とすような明るい深夜。宿舎の板張りの一室があった。板張りの壁と床。寝床と座卓の下に畳が置かれている以外は家具が見当たらない部屋だ。

そこに一人の少年がいた。まだ幼い顔立ちの少年は、幼さを残すしなやかな体を折り曲げて、布団を被っていた。長い睫毛を伏せて見つめる先には、一冊の冊子があった。

彼が布団の中で読んでいるのは、肌を露にした人物が沢山描かれている本だ。
所謂春画という物だ。

この年頃の少年には珍しい事ではないが、一点普通と違う点がある。本には正常位の交わう様子が描かれていたが、筋骨逞しい青年に組み敷いているのは、こちらも逞しい美しい青年である。

傷だらけの手で紙を捲る度に美少年や老年の男性まで多種多様な人物の様々な交わいが現れる。頁毎に交わり方の手ほどき等が書かれて一種の指南書の様になっていた。

少年は、はしたない体勢の男達が現れる度に顔を真っ赤に染めて唇を噛み締めたが、その手は相変わらず頁をめくっていた。

少年の手がある頁でピタリと止まった。

そこには髪の長い逞しい青年が自らの雄を慰めている様子が描かれていた。
その厚い唇や一重の切れ長の瞳に想い人の事を思い出し、ドキリとする。

絵の中の青年の切れ長の瞳に見つめられ、急に罪悪感が湧き出した。

パタンと本を閉じる。

「ア゛〜もう!何やってんだろう僕!」

少年は本を放り投げると布団を巻き込みながら、ゴロゴロと転がりながら悶え苦しむ。

部屋を縦横無尽に転がった彼は、暫くするとコロコロと元の場所に戻り先程投げ捨てた本の前で停止した。
俯せの体勢のまま腕を伸ばし、ペラリとめくる。いつの間にか折っていたらしく先程のページが直ぐに開いた。

「……!!」


悩ましげな青年の絵を再びチラッと見た少年は、無言で再び転がり始めた。

若いから仕方がない。

「時平さぁぁぁん!」

少年=昴は転がりながら恋人の名前を叫んだ。

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あきゅろす。
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