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黒守護獣物語
2
トーチは背後で泣きながらスクワットしている二人組を同情するかのように見た。しかし、二の舞になってたまるかと視線を黒板に移す。

目の前ではスルギナが黒板に人体の略図を書いて、説明を終えていた。

「まあ、このように肉体には曲げてはいけない向きや衝撃を与えてはいけない場所がある。例えば眉間や喉仏、腹の鳩尾の下にある丹田だ。基本的に人体の急所は肉体の頭の先から股までの中心線上に集中している。モシ、俺が言った場所等に打撃を受けた際には絶対に申告しろ。特に頭部を打った時や目を傷付けた時は必ず言エ。此処は替わりが無イ。」

スルギナは黒板上の簡単に書いた人体の頭と目の部分に赤いチョークで印しを書く。

「逆に言えば此処は敵と戦う際に有効だと言うことダ。これは生物なら形状の違う獣でも例外はないからな。たいした力を入れなくてもダメージを与える事が出来ル。このように骨の関節の位置や筋肉、臓器や神経の場所を把握すれば敵に対して最小の動作で有効打を放てるんダ。オ〜イ来いキア。」

そこでスルギナがキアを呼び目の前に立たせた。キョトンと自分を見つめるキアを指差してスルギナは自分の片手を上げて生徒に見せた。

「その例を見せてやる。今からキアを片手だけで床に沈める。キア、いくらでも抵抗して良いからナ。」
「え!?抵抗していいのですか?力強いですよ。」
「抵抗できたらナ。」

キアは同じ頃に生まれた守護獣と比べると断トツに力が強い。勝てるとは思っていないが、一発くらい日頃の仕返しをしてやろうと、挑戦的に教師を見つめて彼は右手を差し出した。


数分後


「イダダダダダダダ痛い痛いマジ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いシエル助けてぇぇぇぇ!」
「男の子でしょ…。一撃くらいやり返しなよ…!」
「無理無理無理ぃぃ!」

そこには涙目で泣きわめくキアの姿があった。他人から見たら、ただスルギナがキアの右手首を軽く握っているようにしか見えないが、握られているキアは体を不自然に捩り痛みの為か脂汗を滝のように流して床に座り込んでいた。

その横では、いつの間にか席から移動していたシエルが、何時もは無表情な顔を紅潮させてキアを鼓舞している。だが、育成士の応援にもキアは叫ぶだけだ。

「体の構造を把握しテいれば、この様に手を掴むだけで戦闘力を失なわす事が可能ダ。ドウダ?キア。」
「全身が引き伸ばされた感じですぅぅぅ!」

スルギナが笑いながら手を少し手を捻ると、キアは悶えてバンバンと床を叩いて絶叫した。

その後、スルギナに片手だけでぶっ飛ばされたり関節技をキメられたりツボを突かれりして実演の生贄になったキアはシエルに支えられながらフラフラと自分の席に戻ると、パターンと机の上に俯せになった…。

「チナミニ、この事はこれからお前達が選択するタイプの一つ【静】には特に関わるカラ、【静】を学びたいと思っている奴ハしっかり勉強してオケ。」
「先生、【静】とは何ですか?」
「ん?初日に散々説明したダロ。まぁ新人も居るシ、改めて説明してやロウ。

お前達には華換期の頃に実技のテストを行ってもラウ。その結果と、それまでの成績を合わせて【動】と【静】の二つから一つを選択してもらうゾ。

この【動】【静】とは簡単に言エバ戦い方のタイプだ。これによってその後の授業内容は変化するからシッカリ考えろヨ。

【動】は感情を外に発散する事でモチベーションを上げて戦うタイプだ。主に打撃技等の肉体技を主体とし、重い攻撃をもっての一撃必殺が売りの豪壮で感情派の戦い方だナ。これは感情の高まりによって自分の実力以上の力を出せて強敵を倒すが、一方で本能のままに戦っているから策に陥りやすイ。時々自分より実力に劣る相手に負けたりするナ。

【静】は逆に感情を内側に凝縮し放出して冷静に戦うタイプだ。関節技等の変則技を多用とし、相手の力を利用して戦う流麗かつ知性派の戦い方だ。安定した力を出せて自分より下の相手には負ける事はないが、それ以上だと手詰まりになり敗走戦にナル。

互いに一長一短があり、ドチラが良いとは言えない。単純に自分の戦闘スタイルに合ったタイプを選んだ方が良いナ。

二つを選択した後には、ソレゾレの本格的な戦闘実技の授業を受けてもらうガ、それまではお前達は単純な戦闘訓練のみを行ってもらうカラ覚悟シロ。」

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あきゅろす。
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