エリア外
案外名無しの家までバイクを走らせている間、僕は焦っていたのかもしれない……
直ぐに付くだろうと思って加成のスピードを出していた筈なのに、何故か名無しの家に全然たどり着かなくてとてももどかしかった。こう言う気分って死ぬほど苛々してくる……身近に草食動物立ちが居たら噛殺してたのに……。

…、いや、ダメだ。そんな事していたら名無しの家に辿り着くのが凄く遅くなる、そんな事は絶対に避けなくちゃならない。風邪と言えども、僕と電話している間にも何度も咳きをしていたし、もしかしたら名無しが言っている以上に現場は重症かもしれないじゃない。

そう思ったら……尚更焦りが募り、僕は更にスピードを上げた。もしもここに君がいたら、危ないって僕に叫んでいたかな……? それとも只只管抱き着いていた? 

こんな事考えてる僕は、なんだかイカレテイルのかもしれない。何時も何時も、僕の頭の中は名無しの事ばっかりだ……。
嗚呼、早く―――








「あ、もう着たんだ、早かったね恭弥」
「……そう?」

名無しの家に付いた。ドアをノックしてから数秒で出た名無しの姿に愕然となって暫時言葉が出なかったよ……。僕の視線かもしくは感覚か、名無しは何度か瞬いてから自分の姿を見て苦笑する。でもその様子じゃ其処まで重症でもなさそうで安心したよ。


「さっきまで寝てて、体が重くて」
「大丈夫? 未だ寝てなよ」
「え、でも恭弥が来てるのに…」
「良いから寝ろ」

無理やりに名無しの言葉を押しきって、玄関から中へと入り込む。無論、僕も中へと入った。鍵を締めることも忘れずに――

「僕が何か用意してあげる、だからその間ベットで寝てなよ」
「……でも」
「僕の言う事が聞けないのかい?」

少しむっとした表情をした君に、少しだけ罪悪感がわいてしまった。でもそうでもしないと、僕の気が持たないっていうの、気付いて欲しかったな……パジャマ姿で出てくるのは未だ吉として、ボタン、開け過ぎでしょ……。



渋々ベットへ行った名無しの後姿を見届けてから、僕はキッチンへ足を進める。昔何度か名無しの家に来たことは会ったけれど、ここまで入り込んだのは今回が初めてだ。何となく冷蔵庫他棚を漁っているが、食べ物と思しき物が見当たらない、否、何時も何を食べているのかが良く分からない。

「……名無し、毎日ちゃんと食べて無いんじゃ……」

少しだけ心が痛む。栄養取れてないんじゃ力も出ないよ、いざとなったときに、変態からも逃げられないじゃない。
此れから僕が何か買って来ようか、なんて思ってたら……



「恭弥?」
「……なんで下りてきたの?」

名無しがキッチンまで下りてきていた。さっきベットまで行ったと思ったのに、予断だったか。名無しを睨む様に見ていれば、少しだけ悲しそうな表情をした名無し。なんだかずっと視線を向けていられずに静かに反らしてしまった。


「いいよ、食べたくないから、有難う」
「……食べたくない、じゃなくて食べるものが無い、の間違いじゃないの?」
「……! そんなの」

嘘を付けばすぐに分かる。名無しは嘘と真実が少し分かり難い方だけど、僕の目から見たら歴然なんだよ。分からない物なんてあるわけ無いでしょ。

「だったら、此れから僕が何か作ってあげるから」
「え、作れるの?」
「……」
「あ、作った事ないんだ」
「……やっぱり、何か買ってくるよ」

勢いで何言っているだろう僕は。作った事なんて無いよ、変なもの食べさせて体壊しても悪いから、僕は買ってきてあげることしか出来ないよ。

「名無しはここにいて、僕が一人で買ってくる」

名無しをリビングのソファーに誘導する様に連れていって座らせれば、なんだか僕の方をじっと見つめる。……止めてよ、そんな目で見ないで、そわそわしてきて押さえられなくなるから……。

「何?」
「……一人で、行くの?」

まるで「連れてって」って言っているみたいに僕を見つめるその瞳に翻弄されて、僕は何も言えなくなってしまった。連れ出して風邪を拗らせてはいけないっていうのに、もしも外に出して何かのウイルスに感染した、なんていったら如何すれば良いのさ、いや、それなら未だ良い。名無しに目を付けた野良犬共が涎を垂らして名無しを見ていたりしたら、僕はもう絶えられない。
全て殺してしまいたくなる。

別に誰かに渡したりはしないし、渡す気なんて更々無い、けど……やっぱり見られていること自体が嫌なんだ。

だって、名無しは僕だけのもの、だから。


「なんでそんな顔するの、恭弥」
「? なんの事」
「……、なんでもない」

ふと僕から視線を離した名無し。ふと一瞬、一瞬だけど―――


なんだか、君が何処か遠くに行ってしまうような気がした。




……気のせい、だろうか?

beforafter

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