心の内
「名無しは貰って行くから」
「おい、ちょっと待てゴラァ!」
「ご、獄寺君ってば!」

強引かも知れないが名無しの手を取って早足で連れていく僕。だって、なんだか此れ以上彼らの元に居られたら僕のほうが如何にかなってしまいそう。
僕の権力で持って、授業に出なくても良いとさせて上げるからさ、僕の傍に今日一日は居てよね。


「……皆」
「あいつ等の事を心配するの? 名無しは」

廊下を抜けて応接室にたどり着いた時、近くの窓から彼女はクラスの方に視線を向けた。
何処と無く、否だった。彼女が僕以外の誰かに視線を向けて、別の誰かを思うことが――。

「ねぇ名無し」
「何?」

だからさ、いっそのこと名無しを、誰にも見られ無いようにしてしまおうかとすら考えた。
名無しの肩を掴んで見つめても、彼女は無邪気に笑う。……だから、そんな事が出来ない。


「何でも無い、さぁ入って」
「……へんな恭弥」

そして応接室に入っても、君はソファーに寝転んで僕の仕事の様子を眺めつづけるんだ。
其れで良い、別に多くは望まないから……責めても僕の傍に居て欲しい。その代わりに何処にも行かせやしないけれども。

「今日一日ずっとここに居てね」
「え、で、でも」
「不満でも?」

僕の言葉に少し困った表情をする名無し。仕事とか委員会とか色々あるから困っている様子だ。別にそんなの気にする事無いんだけれどもね。

「不満、っていうか……今日の帰り際ツナくん所行かないと」

「……ふぅん」

苛々。

「せっかく誘ってくれたんだから、勉強会、参加しないと――」
「駄目」
「えっ!?……ぁ」

嫌だ、嫌だ絶対ヤダ。
あんな奴の言葉真に受ける君だとは思っていなかったよ名無し。

名無しの頭を押さえて、口付けをした。

「――恭、や……」
「……」

何してるんだろう、僕は。

直ぐに口を離して、君から視線を離した。真っ直ぐに、見られなかった。

「ごめん、名無し――」
「ん、別に、良いけど――でも、
何でこんな事したの?」

恭弥にしては珍しいと付け足す君。
今なら言っても良いかな? でも、この気持ちは嘘じゃないのかもしれない……信じたくなかったけれども、君が、君の其の口が、僕以外の男の名前を出すのが、別な男を其の瞳が捕らえることが、嫌だ。
明らかな独占欲かもしれないけれど、僕は――そんなの見ていられなんだよ。


「聞いて、名無し」
「うん、何?」

しっかりと聞いて、何度も言わないもの。いや、何度も言えない。


「君が他の男の側に居るの、嫌なんだ」
「……それって」

少し驚いた表情をしながらも、名無しは僕を弄ぶような好奇な表情で言う。そんな彼女の表情に引かれただなんて言ったら、僕の頭は如何にかなっているってなりそうで怖い。


「恭弥、嫉妬してるの?」

してないよ。
そう言いたいけれども、このまま其れを言わないでいたら、君は本気で他の男といちゃ付きそうだ。だから僕の側から離れない様にという念を押すのと同時に、ずっと一緒に居て欲しいという願いを込めて――僕は君に言う。


「かもね、
だから、何処にも行かないで、ずっと僕の側に居てよ」

未だ言わない。好きだ何て。こんな事を言った時点で、其の言葉を言ったのと同じに値するのかもしれないけれども、名無しは薄っすらと笑って応えてくれた。

「うん、何処にも行く分けないでしょ」


安心する笑みを残して、名無しは僕の心に居座った。
ズルい。そんな表情されたら、誰にも渡せなくなるでしょ……下手したら、君を監禁してしまいそうで怖いよ。

「そうかい……じゃあ今日は僕に付き合ってね」

僕の心を乱した分、きっちり責任とって貰うから。

beforafter

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あきゅろす。
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