並盛町
暫くしてから名無しの家に付いた。家といっても、マンション暮らしの彼女には親が居なく、否、死んだと言うわけではないのだが、彼女は「親が家に帰ってこないのだ」と言っていたのを昔聞いた覚えがある。
だから家の中に彼女が入るときに一緒に乗り込んで何かしたとしても、気付かれることは無い訳だ。……おっと、何を考えているんだ僕は。


「だ、大丈夫? 恭弥」


僕を何処と無く心配そうに見つめる名無し。僕が何を考えていたかと言うよりかは、ぼんやりとしていた僕を気にかけてのことだろう。別に心配する事は無いというのに、其れでも心配事をするというのであらば、君の身を案ぜよと言う所だろうか。


「何でも無い、じゃあね名無し」

名無しの家の前まで送っていってから、僕は再びバイクにまたがる。僕に送ってくる君の視線が少々悲しげだったのが、僕の唯一の気がかり。
――君の事が好きだ何て、そんなのは僕の気の性さ。

「うん、ぁ……待って」


ふと、僕に停止を呼びかけて。名無しは僕の直ぐ傍までやってくる。何をするのかと名無しを見ていれば、何処か恥ずかしそうな表情をしてから、僕の頬にキスを一つ。
驚いて何も言えない僕とは対照的に、名無しはにこりと笑って僕の傍から離れた。


「じゃあね、また明日」


そしてマンションの中に走って消えていく名無し。僕はそんな彼女からまた、目が離せなくなってしまった。
反則だ、あんなの。
絶対に業と僕の気を引くためにやったんだ……。

「馬鹿名無し」

ぼそり、そんな事を吐いて僕はバイクを走らせる。ここに名無しを送ってきたときとは比べ物にならないほど僕は、スピードを出してバイクを走らせた。
本当は「馬鹿」だなんて思っても居なくても、意地らしい彼女のことをそう思ってそう吐いてしまう僕が居る。つまり僕は、彼女に恋しているとでもいのだろうか……。


「違う、違う、そんなの」
有り得ない。


詳しくは僕がそう思いたいだけなのかもしれないのだが、此れ以上彼女のことを考えていると頭がパンクしてしまいそうだ。
だから僕は急いで並盛に戻るのであった。先程咬み殺し損ねた客が居たなと思い出して。
本当は、自分の頬が紅潮しているようなアツサを感じていたからだなんて言えやしない。だから風を切って冷ましてやろうだなんて――そんな事、思ってないよ。


「委員長」

並盛に戻ったら、草壁が僕を呼んだ。
少々焦っている様子から、何があったかと問えば彼は足早に語る。

「十人以上の生徒たちが、喧嘩を始めた様でっ」
「ふぅん、そいつ等は今何処にいるの?」
「学校の裏側です!」

草壁は触れない。此れまで僕が何処に行っていたかと言う事を。別に言う必要も無いし、言った所で何も変わらないから如何でも良いんだけどね。
僕は学校の裏側に足を運んだ。


案の定、其処には十数名の男子達が群れて喧嘩をしている。殴り合いになっているところから、何やらやらかしたみたいだ。今日は余り咬み殺していないから、なんだか闘争心が疼いた。

「ご苦労、後は僕は始末するから」
「っ、委員長!」
「? 何」


草壁が何か言おうとしたが、何でも無いと言うから僕は無視をする。別に構っていられないし、このままだと風紀が酷く乱れてしまう。

「先に良い? 咬み殺した後で」
「はぁ」

曖昧な返事の後、僕は其処らへんにいる十数名の男子たちを一人も残る事無く始末した。
其処らに散る血が、其の惨劇の悲惨さを物語るだろう。


別に、この場に名無しが居ないから良いのさ。
あの子にだけは、こう言う場面は見せたくないから――。

beforafter

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あきゅろす。
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