学校外
名無しは鞄を取りに戻ったから、もう少ししたら下駄箱に来るだろう。何となくそんな事を考えながら、僕は校内ではあるものの、下駄箱近くをうろついていた。
何を考えているんだか、僕は。ほっておけば良いじゃないか、あんな娘。


下校時刻なものだから、多くの生徒が下駄箱近くに寄って来るが、僕が居る性で避けて通り……もしくは引き返していく生徒が多い。馬鹿らしい、臆病者め。


「あれ?」
「……」


後の方から、聞きなれた声がして僕は振り向く。勿論其処には名無しの姿――。何故か心のざわめきが消えて、安心したような気分に陥ってしまった。
名無しは僕の方に寄ってきて、何度か瞬いて首を傾げる。


「何してるの? こんな所で」
「いや、別に――」
「ん、そう。……じゃあね、恭弥」


素っ気無い返事。そんな事を思いながらも、僕は下駄箱に靴を取りに行く名無しの後姿を眺めた。何処か小さくて頼りない其の背中。守ってあげないといけないなんて思うなんて、僕も可笑しいよね……。


「ねぇ、名無し」
「何?」


靴を履いてから僕の方を降り返って、名無しは不思議そうに僕を眺めた。そんな顔をしないでよ、なんだか、僕自身の感情が如何にかなってしまいそう。

「僕が、家まで送っていってあげようか?」
「え?」
「無理にとは、言わないよ」


何いっているんだろう僕は。名無しを家まで送っていくだなんて、此れまで一度だってした事がないのに。送っていこうだなんて考えるだなんて。心配しているわけでもなんでもない、そう思いたい……。

「珍しいね、恭弥がそんな事言うなんて」

クス、小さく笑って名無しは一つ頷いた。

――可愛い

そんな事思っただなんて、君には絶対に言わないから。


「分かった、じゃあ家までバイクで送っていくよ」
「有難う、恭弥」

名無しと下駄箱前で分かれてから、僕はバイクを取りに足を進める。先程よりも僕の足取りは心なしか軽やかだった。バイクを置いてある所まで行き、ふと、気づいた事――。


「まじで?」「うんうん」「本当だって!」


数名の女子が群れて話をしている。
ここは見逃してやろうか、名無しが待っているだろうし――そう思い、僕はその数名の女子たちを無視してバイクに乗り、校門の前まで飛ばした。

秩序を乱すものを正すのが僕の役目だと言うのに、僕も相当ふざけているね。殴り倒せば其処ですむ筈なのに、遅れるからってだけの理由で名無しの元にバイクを走らせるだなんて――。普通の立場の人間だったら出来なかったかもしれないけれど、僕は力と権力、どちらも持っているんだよ。


「待った?」

僕の問いに、校門の前で立っていた名無しは首を横に振った。少しだけ嬉しそうな表情をした名無しが、愛しく感じただなんて、言えるはずもないけれど。

「じゃあ乗って、しっかり掴ってね」
「うん」


僕の後ろに乗った名無し。こう言うときにスカートって不便だよね。なんだか動きがゆっくりな名無しを片目に、スカートに目が行ってしまう僕は可笑しい。何処見ているんだ、僕は。
視線をずらして前を向けば、名無しは僕の腹に手を回してくる。ぎゅっとしまった其の腕が、温かくて心地良かった。このままずっと其のままで居て欲しいだなんて考えていた事は秘密さ。

普段出しているスピードよりも遥かに遅く、僕はバイクを名無しの家に向かわせる。

だって、早く着いたら名無しと早く分かれなきゃならないでしょ……。

beforafter

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