学校内
名無しに半分持たせて、僕も半分持って、其の資料を職員室前まで運んで持っていく。途中名無しがよろけそうになったり、躓きそうになったりして資料を廊下の途中ばら撒いて歩いていた。
僕は其れを風紀委員の奴らに拾わせて、結局四五人がけで職員室前まで運ぶ事になってしまった。……何て厄介な事を。
「何何枚も落としているのさ、名無し」
「ご、ごめん……ついうっかり」
表情が深刻な君。笑っちゃう。そんな顔しなくても良いのにね、別に怒っているわけじゃないんだからさ。
「まぁいいよ、この資料はここにおいておけば良い」
「じゃあ此れで終わり?」
「そう、終わりだから帰っても良いよ」
「やったー」
何処か嬉しそうにはしゃぐ名無し。そんな彼女の表情を見ているのは楽しいけれども、仕事が終わったとはしゃいで、早く帰りたいという彼女の姿は――あまり見たくない。
「じゃぁ一足先に帰らせてもらいます! ぁ……応接室に鞄忘れた」
「馬鹿名無し、直ぐに取ってきなよ」
馬鹿といわれたことでむっとした表情を僕に向けながらも、彼女は何処か嬉しそうに僕を見ていた。変な名無し、今更だけど、君は変だよ。
「じゃ、取ってくるね」
はしゃぎながら元の道を戻っていく彼女の後姿を見つめながら、僕は何時も思う事がある。僕は何故――彼女の後姿を目で追っているのかという事。彼女が見えなくなっても未だ、廊下の一辺から目が離せないで居た。
「あの、委員長」
「……何」
道の途中落とした書類を拾い集めてきた草壁は、書類を山の様に詰まれた其の上に置き、僕を心配そうに――否、不思議そうに眺めてきた。
自分でも分からない、僕は一体、何がしたいのか。
「名無しさんが、気になるのでは?」
「……別に」
興味は無いよと口では言うものの、内心では全く違う感情が過った事を僕は知っている。否定しても否定しきれない何か、僕としては可笑しな感情が―――確かに胸の奥底で渦を巻いた。
馬鹿な、僕。
秩序であり、提議そのものである僕が一体何を考えている? 降らない、降らなさ過ぎる……。
「草壁」
「はい」
「名無しの事、見張っといて」
馬鹿。何いってんの僕は。
「見張ると言いますと――」
「別に、なんかあったら言ってって事だけだよ」
深い意味なんかありゃしないでしょ。そう、自分に言い聞かせた。言い、聞かせたかった。
名無しの傍にうろつく影が否だ何て――言えるはずも無いでしょ、いや、そんな事、僕は思ってすらいない、思いたくなんか無い。
「じゃ、よろしく頼むよ」
「は、はあ」
其れだけ草壁に言い残し、僕は学校内を見回りに出かける。夕暮れ時ってものは、校則違反者がとくに増えるんだよ。だからそいつ等を見つけて咬み殺すだけ。
なんだか、自分の気持ちに苛々した。
beforafter
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