警告音
名無し曰く。友達は影で自分に色々と言っているらしい。もう、その時点で友達とはいえない気がするけれど、当の本人は友達がと言い張るのだろう。


「恭弥、友達が、恭弥が付き合っているって言っているの……私、如何しても其れが嘘っぱちに聞こえなくて」
「ふぅん、何、それって、あの男の告白にオーケーしたことと如何いう関連性があるの?」

僕の言葉に、少し視線を落とし、なんと言ったら良いのか考えている様だ。だが少しすると、彼女は顔を上げて申し訳なさそうな……伺うような表情で僕を見てきた。


「だって、恭弥が何処かに、行ってしまうようなきがして……もしも恭弥が私が告白されて付き合ったら……私の事をしっかりと見てくれるのかなって、思って」

……へぇ、可愛い事言ってくれるじゃない。

「ねぇ、名無しって馬鹿だよね」
「っ、ぇ?」

静かにソファーに隣へと腰を下ろせば、彼女は少し驚いた表情をした。僕をこんなに惚れさせておいて、何がしっかりと見てくれる? 見ているよ、此れ以上見ろだなんて、可笑しい。
我侭な娘。

「名無し、僕は名無ししか居ないんだよ、それなのに君が他の男といちゃついたりなんかしたら、僕は気が狂って死んでしまいそうだ……」
「、きょ、恭弥」
「お願い、だからもう、他の男の所にいかないって誓って? 君は、僕だけのものでしょ? 僕も、君だけのものでしょ?」

僕でも、こんな事を自分の口から言ってしまうなんて思いもしていなかった。僕は、こんなにも彼女の事が好きなのか。名無しのことを考えると、こんなに近くに居ても、なんだか離れているようなきがして、寂しくて辛くて、心の奥底がきりりと痛むんだ。
そんな僕の思いを踏みにじった分、しっかりと返してもらわないと困るな。

「……恭弥、私、友達からその話し聞いて、とても辛かった」

僕の返事に答えず、ふと話し始める名無し。
少し俯きながら、彼女は何処か寂しそうだった。

「私、恭弥と付き合っていないから。それに恭弥は何時でも誰とでも遊べるって思ったし、そうしたら私もその内の一人である可能性だってあるし。自分の思いあがりだったのかなって、そう思って……」
「……名無し」

知らなかったのかもしれない、僕は名無しの気持ちを。自分の感情に左右される事ばかりで、彼女のことを真剣に考えてあげた事は、何回あっただろうか。指で数えるほどしかないかもしれない。
僕は名無しが自分の側に居るものだと思っていたから、彼女が他の男の側に居たのを酷く否定したかったけれども、彼女もその時同じく、僕が他に彼女が居るという事、もしくは自分の立場を考えたのだろう。

じゃあ、僕は?

僕は、どんな立場なの?


「名無し、僕は君の何?」
「……え?」

僕は何時も君のそばにいるよね、いつも君を見てきたよね、よく話して、いっしょに食事したり、君の家で遊んだり……嗚呼、こんど映画でも一緒に見に行きたいな。一緒に色々な事をしたいな、でも、そんな色々な事をするのは、只の友達では済まされないって言う事だよね。
僕は、君の何? 友達ではないんでしょ? だって、そうでないと、君はどうしてそんな思いを僕に向けているのかと、不思議に成るじゃない。君は、僕の事を心配したのに、僕は、君の事を心配したのに、心を痛めて苦しんで、互いの事を思って悲しんで――それが只の友達のすることなの?

「恭弥、それって……」
「僕は、君の事が好き」
「っ……」

しっかりと、君に言った事が無かったのは、僕が恐れていたからなのかもしれない。僕は並盛の秩序、そして全ての基準。そう思っていたから、その自分自身が壊れていくのが怖くて、自分はもっと、手の届かないような存在で、誰からも操られずに、何時までも孤高であるのだと思いたかったのだろう。僕は、自分のプライドを守るために、名無しを蔑ろにしてきたんだ……

「恭弥、私も、好き、だよ……でも」


彼女は、一瞬臆病な表情を覗かせて、僕の事を見つめた。僕がはじめて告白したような気がする。嗚呼、ここでどうか、悪い返事が戻ってきません様に。
君を好きだから、君の事が大切だから……僕は君が何処かに行ってしまうのが怖くて、もしくは君を失うのが怖くて――だから。どうか。


「もしも、恭弥と付き合ったら、恭弥は、そのこと秘密にしてくれる? 誰にも、言わないって誓ってくれる?」

顔を上げて僕を見た名無し。その瞳は力無くて辛そうで、本当は別な事を思っていても、そうしなくては成らない何かがあるのだと伝わってきた。でもどうしてさ、なんで……秘密にしなければ行けないの?
只好きってだけじゃ……君を守るって言うだけじゃ、だめなのか……


苦しい、どうしてか、そんな君を見ていると、心の奥底が苦しくて……辛くてどうしようもなくなってくるよ。

beforafter

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