#アレニル前提アレルヤ+ライル
アレルヤと、口許に笑みを浮かべながら、優しい声で、僕の名を口にしていた貴方の姿を、ふと思い出す。舞い散る粉雪が肌へと降り、白いそれは溶けて無くなり水になる。そのことに侘しい想いを抱きながら、アレルヤは空を仰いだ。震える瞼を下ろし、気を抜けば溢れだしそうになるものをグッと堪えて、落ち着かせる。暫くして、ゆっくりとその瞳を開いて目の前のそれに視線を落とした。
「・・・遅くなって、ごめんなさい。」
手に持っていた白薔薇の花束を、目の前のケルト十字の墓前へと添え、片足を折りそこへと跪く。
貴方は此処にいるのかもしれない、けれど貴方が此処にいる確証も無い。
そんな事、解ってはいたけれど、それでもこの地へと来ずにはいられなかった自分が、アレルヤは酷く惨めに思えた。
此処は貴方の、貴方の家族がいる場所なのだ。
僕が来るべき場所ではない筈なのに、それでも此処に来てしまった自分は、今でも貴方の面影を追い求めてしまっているのかもしれない。
『亡き人へ』
ソレスタルビーイングがその活動を開始したのがいつの頃だったのか、詳しくはアレルヤは知らない。
それでもこの組織は、世界の変革を起こすただその目的の為に、長い間僕らが武力介入を開始するずっと前から、活動を始めていた。
そんな組織に僕が来てから、何年かが経ち、こうしてガンダムマイスターとして、訓練やちょっとした任務をこなしながら、日々を過ごしている。
今だ世界には自分達の存在すら知られてはいなく、その活動は大きいものではない。
けれど、自分達ガンダムマイスターが、その時が来るまで成すべき事は、まだまだ山積みだった。
「ロックオン。」
「おー、アレレヤ。どうした?」
目の前に探し人を見つけてアレルヤは、彼の名を呼ぶとロックオンは優しい微笑みを浮かべて、茶色の髪を靡かせながら自身へと振り返る。
それだけで、アレルヤはドキリと心臓が跳ねる心地がした。
「あ、はい。イアンさんが、デュナメスのメンテナンスが完了したので、確認して欲しいと・・」
「了解だ。すぐ行くよ。」
先ほどイアンに頼まれた伝言をアレルヤが口にすると、ロックオンはアレルヤの頭にその手で軽くポンポンと叩き、ありがとうと言う。
そしてロックオンは直ぐに踵を返して、イアンのいる整備室へとその足を向けた。
アレルヤはロックオンのその背を見つめながら、彼に触れられた頭に自身の手を重ねる。
そして愛おしげに眼を細めると、アレルヤは今から向かおうとしていたシュミレーションルームへとその足を向けた。
こんな些細な事で嬉しく感じてしまう自分が嫌だなとは思った事は無い。
初めは、今まで感じたことの無い感情に戸惑いを感じたけれども、それも認めてしまえばストンと自身の中に落ちていた。
アレルヤは同じガンダムマイスターであるロックオン・ストラトスに仲間以上の感情を持っている。
初めて会った時から、自身に優しく笑顔で接してくれた彼に、魅かれ始めたのはいつの事だっただろうか。
ロックオンのように今まで話しかけられた事も、優しくされた事も無かったアレルヤは、彼と過ごしていくに連れてそれが心地良く感じるようになっていた。
そしてその気持ちが彼に気づかれてしまうのも、また当然だったのかもしれない。
それだけアレルヤの想いは初めて抱いた感情故に、もてあまし気味な程に大きいものとなっていた。
「なぁ、アレルヤ。」
「何ですか?」
深夜、行為を終えた後で、自身がシャワールームから出ると、ロックオンはベッドに寝そべりながらアレルヤの名を呼ぶ。
それにアレルヤもその瞳を彼の方へと向け、ベットの端へと腰をおろした。
「・・・お前さ。」
「はい?」
「何で、俺なんか好きになった?」
「・・・・・この状況でそれを言うんですか?」
ロックオンの言葉に思わず、悲しい感情が溢れる。どうして好きになったかなんて、それは自分だって解らない。けれどいつのまにか好きになっていた。
男だとか、同じガンダムマイスターだとか、彼に惹かれてはいけない要因は山のようにあったのだと自覚していたけれど、それでもこの気持ちを偽ることは出来なかった。
だからこそロックオンの言葉がより自分には寂しく感じてしまう。この人は自分のようには僕を思ってくれていないのだろうかと、考えてしまう。
「あぁーすまん。俺が悪かった。だから、そんな泣きそうな顔するなって。」
ロックオンはアレルヤへとその手を伸ばし、ぎゅっとアレルヤの身体を抱きしめたかと思うと、慰めるように彼の瞼に優しく口づける。
「理由・・・必要ですか?」
「いや。」
「男だから、いけないって事?」
「そんな事は無い。」
「・・なら、そんな事言わないで下さい。」
「あぁ。・・だな。」
優しく響くロックオンの声は、とても心地が良い。アレルヤはロックオンの肩に頭を乗せ、瞼を閉じる。 トクントクンと、彼の体温と生きている鼓動が伝わってくるのが解った。
こういう時、自分が生きているんだなと感じる事が出来るなんて言ったら、彼は驚くだろうか。
貴方の存在が僕の生きている証なんですと、自分を受け入れてくれる貴方がいたから、僕は此処にいられる。
そんな事言ったら、君は怒るだろうか。
(アレルヤ・・・寝たのか?)
ロックオンの声が遠くに聞こえる。瞼が重くて、アレルヤはロックオンの言葉に反応する事が出来なかった。
(アレルヤ・・・俺は・・)
薄れる意識の中、ロックオンが何か言おうとしているのは解ったが、もうその言葉に返事を返すことなど出来そうになかった。
すみませんロックオン、後で聞きます。だから、今は貴方の傍で眠らせてください。
アレルヤは心の中でそう返事をすると、直ぐにその意識は暗闇へとおちていった。
あれから五年。ロックオンと共に過ごした時間がつい最近の事のように思い出せる自分にアレルヤは苦笑した。
貴方が僕の前からいなくなって、いやこの世界から貴方そのものが、いなくなってしまって、もうそんなにも経ってしまった。
あの時ロックオンは、僕に何を言おうとしていたのだろうか。
自分が目覚めた後、ロックオンの姿は既にそこには無く、聞く機会を逃してしまった。今となっては解らないけれど。
「あれ、・・・アレルヤ?」
「・・・ロックオン?」
「来てたのか。」
「・・えぇ、まぁ。」
自身を呼ぶ声にアレルヤはハッとなって振替えってしまう。一瞬あの人の声と混同してしまった自分がいて、馬鹿だなとそっと嘆息した。アレルヤは気を持ちなおして、こちら側へと近づいてくるライルにアレルヤは柔らかい笑みを浮かべる。
「ロックオンも、こっちに来るんだったら、一緒に来れば良かったですね。」
「お前がいるなんて思ってなかったな。兄さんの?」
「はい。」
「そっか。」
ライルが、ニールとアニューさんのお墓の前で跪き、僕と同じ色の薔薇の花束を目の前に置く。アレルヤはそれを黙って見ていた。
暫くの沈黙。けれど、居心地の悪いものでもない。
「アレルヤ・・お前さ。」
「はい。何ですか?」
「アレルヤにとって、その兄さんって・・・」
長い沈黙の後、ライルが口にしたその言葉にアレルヤは僅かに目を見張るが、すぐにそれは納得したように細められる。
ライルは僕がここに一人できた理由を、何となく感づいているのかもしれない。
性格はそんなに同じって訳では無いけれど、こういう、妙に感が鋭い所とか、優しい所は似ているなと思った。
アレルヤはふっと、微笑むとそれを迷うことなく、その言葉を口にする。
「大切な存在ですよ。」
「え?」
「僕にとっては・・・とても。今も、それは変わらないんです。」
「アレルヤ。」
ライルはアレルヤのその言葉に、一瞬目を見張りアレルヤを見るが、直ぐにそれは細く細められる。仕方ないなと、何故かライルはそう言葉を紡ぎ、そっと溜息をついた。
「おい、アレルヤ。」
「何ですか?」
「うるせぇーいいから、こっち。」
「え、っちょ!?いきなり何・・・」
ライルは唐突にアレルヤの袖を引っ張ると、その衝動で傾いたアレルヤをその腕に受け止める。
行き成りのライルの行動にアレルヤは呆然とその腕に収まってしまった。
なんか、とてつもなく恥ずかしい体制な気がする。
「え、ろ・・ロックオン!?」
「黙れ、何も言うな。こっちが恥ずかしいんだよ。くそっ!何で俺がこんな事。」
「・・・貴方に言われたく無いんですが。」
「仕方ねぇーだろ。俺は兄さんと違って、男慰めたことなんてないんだって。」
「もしかして、慰めてくれてるつもりなんですか?」
「悪いかよ。」
「・・いいえ。」
そんな物言いをアレルヤへと向けるライルに多少乱暴な言い方であっても、やっぱりこの兄弟は似てるなと、そう思った。
「ありがとう、ロックオン。」
アレルヤは下を俯いて、消え入りそうな声でそう呟くと、ライルの腕に大人しく身を預ける。
そんなアレルヤをライルは黙って見つめながら、ただ傍にいてくれた。
愛してます。今でも貴方を愛しています。
まだ思い出には出来なくて、この想いは消えそうになくて、だけど貴方はもういない。
あの頃は貴方と二人ならどんな事でも乗り越えられると信じてた。
けれどもう戻れない。記憶にある貴方の笑顔さえ戻らない。
もしかして貴方には、僕の想いは重過ぎましたか?
けれど、それでも貴方以上なんて、多分きっとこの先僕には無い。
それだけ貴方は僕にとっての特別だったんです。
好きでした。愛していました。そして有り難う。
今亡き人へ送る言葉を胸に抱え、アレルヤはそっと目を閉じた。
終了
アレルヤにとって、ニールって・・もう女神の域なんじゃなかろうかと、思い始めた今日この頃。
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