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/OO
困惑する者(ヨハニル)






#ヨハニル
(*本編時間軸無視。ロックオン乙女化傾向。ヨハン優し過ぎ偽物警報。「抱える者」と同軸。)














鳴らされたチャイムに訝し気に思いながら、その扉を開けた先には、予想外な男が一人立っていた。

「久しぶりだな。」

 そう言って、急に現れたその男に、ロックオンは不快感を感じる前に、思わず呆気に取られてしまう。
 次までの任務の為に、時間があった為、ロックオンはアイルランドにある自身の隠れ家に一時帰宅していた為、この男、ヨハン=トリニティーの突然の登場に驚きが隠せなかったのである。

「あんた、なんで・・」
「とあるルートからの情報を閲覧させて貰った」
「おいおい。」

 それは犯罪なんじゃないのかとか、なんでこんな所にあんたが居るんだとか、疑問は沢山あるものの、ロックオンはその問いを口からは出さず飲み込んだ。
 たとえ問い掛けても、この男は答えるはずなど無い。

「んで、こんなところまで来て、あんたの目的は何だ?」
「君に会いに来たと言ったら?」
「はい?」

 何を言っているのだろう、この男は。
ロックオンは眼を見開き、突拍子な事を口にしたヨハンを凝視した。
 そんなロックオンの姿に、ヨハンは口許に笑みを浮かべ、ロックオンの耳元へと唇を近づけ、その低い声で甘く囁く。

「君に会いたかった。ロックオン。」
「つっ!?」

 全身がゾワゾワと総毛立ち、身体が膠着する。
急速に体温が低下していくように感じた。

「き・・気色悪い事を言うなよ。鳥肌立っただろうが!」
「すまない。だが、また君は一人考えこんでいるのではないかと思ってな。君は頼り方を知らないようだから。」
「・・っ!」

 瞬間的に顔が熱くなるのを感じ、この男にそんな顔を見られたくなくて、ロックオンは右の掌で顔を覆い、顔を背ける。
 ヨハン=トリニティー、この男はどうも掴みにくい。自身がこんな風に振り回されるなんて、自惚れという訳ではないが、おかしいと思う。何故だか初めて会った時からこの男には、ペースが乱されっぱなしだ。
 自分よりも年上のガンダムマイスターだからだろうか、今までは年下に囲まれていたから、自身が子供のように思われているような態度はなんだか気恥ずかしいのだ。

「取りあえず、中に入らせて貰えないか?怪しまれる。」
「あっ・・あぁ。」

 ロックオンは、反射的に頷いてしまい、ヨハンを室内へと招きいれる。しかし、招きいれて、ハッとロックオンはその眼を見開いた。

(なんで素直に入れてんだよ俺は。)

 自然とロックオンの眉間には皺が刻まれる。
トリニティー兄弟。新たなガンダムに乗り、戦場を駆ける。自身達とは違い、その戦い方は容赦なく、時に残虐で、どうもいけ好かない連中だ。相手などせず追い払ってしまえば良かったものを。

「どうした?」
「いや。」

 だが入れてしまったものは仕方無い。ロックオンは溜息をつき、後ろ手で戸を閉める。

「とりあえず、珈琲で良いな?適当にそこらへんに座っとけ。」
「あぁ。」

 ふわりと微笑んだヨハンにロックオンはいたたまれない気分に陥った。
 ガンダムでのヨハンの戦闘から、彼の時に見せる非情さは解りきっているはずなのに。その柔らかな眼差しと笑みに、絆されてしまう。
 昔からそうだった。
ロックオンは誰かに優しくされる事に極端に弱いのだ。暖かなその感情が妙に心地良い。
それに何故か自身は抗えず、受け入れてしまう。


「ロックオン?」
「なんでも無い。少し待っててくれ。」
「・・あぁ。」

 パタパタと彼から逃げるように、この部屋に備えられた台所へと、珈琲を入れる為に足を運び、ヤカンに適量の水を入れ、火をかけた。
 ジーと、それに目を向けながらも、ロックオンの思考は別の方へと働く。
 自身の感じたものに戸惑いを覚えていた。

(なんで悪く無いとか思ってんだ俺は。)

 確かに自分は、人から向けられる優しさに弱い。だがこんな風に思う事は決して無かった筈だ。
 あれかもしれない。
ロックオンはふとその感情にある理由が思い浮かぶ。
ヨハンが弟と妹に向ける暖かな感情を先日、垣間見てしまったからかもなのかもしれない。そして始めて彼と会った時、自身の頭に添えられた掌。
 あれは守る手なのだ。
それを自覚した途端に、自身の中での彼の存在が変わっていたのかもしれない。
 頑なに悪い存在なのだと、思えなくなっていたのだ。

「お湯沸いてるぞ?」
「げ・・」

 いつの間にか、自身の後ろに立っていたヨハンから、伸びてきた手が、ロックオンに代わり、火を落とす。
 考え事をしていた頭は、先程火にかけた水が既に沸騰していた事に気付くのが遅れてしまったようだ。

「何か考え事でもしていたのか?火を扱っている時は、意識をそちらから逸らすな。危ないだろう?」
「す・・すまん。」

 咎められ、素直に謝罪を口にしたロックオンに、ヨハンは目を細めると、彼の手を唐突に取り、ロックオンの腰に自身の手を添えた。

「なっ・・」

 そしてロックオンの常の怪我をしないように嵌められたグローブごしに、ヨハンは自身の唇を押し付ける。流石のロックオンも、その行動に、つい慌ててしまう。

「おまっ・・何すっ
「この手に火傷をしたら、どうする。狙撃手にとって、何よりも大切なんだろう?」

 触れ合うそれがあまりにも優しく、ロックオンは息を飲んだ。自身に伝う唇がグローブ越しなのに、ひどく熱く感じる。
 しかし、その視線はヨハンからけっして離れはしなかった。

「そんな顔はしない方が良い。」

 するりと、顔に添えられた指先。

「抑えがきかなくなる。」

 そう言って、そのまま唐突に重ねられた唇に、抵抗を忘れ、ただロックオンはされるがまま、それを受け入れた。















(不覚・・・だ。)

 口付け後、ヨハンはすまないと口にし謝ると、自身から身を離し、複雑そうに笑った。

(何だかこれ以上君の傍にいると、我慢出来そうもない。今日は取りあえず、失礼させて貰う。)

 そう言い、ヨハンが帰った後、ロックオンはソファーへと身を沈め、自らに対して自己嫌悪していた。

(なんで俺はあそこで抵抗しなかったんだ。あれじゃあ、嫌じゃないと言ってるようなもんだろ。)

 あぁーと、口からは溜息に似た声が漏れる。
まるでその先をして貰いたかったみたいだ。

(あの時の自分は忘れよう。それが一番良い。)

 そう思いはしても、ロックオンの口元から溜息が堪える事は暫く無かった。
























ヨハン兄追悼含み










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