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★夢で夢見るその恋に(紅ニル)





#紅ニル
(両想にはなっていません。)


















 時は既に真夜中を示し、誰もが寝静まっているであろう時間帯。シンとした静けさを保つ空気は、空調管理はしているものの、その場所の外の世界が砂漠である故か、ひんやりと冷たい。癖のある茶色の髪の青年は、自身を組み敷いている長い黒髪の青年へと暖かさを求めて、己の腕を彼の首に絡めた。

「なぁ・・紅龍さん。」

常よりも掠れ気味に紡がれたその名前は、紅龍と呼ばれた青年の耳に心地良く響き、繋縛すらする。

「良いのかよ。あんたのお嬢様放って、俺なんかとこんな事してて。」

そう言いながらも、茶色の髪の青年、ロックオンは、まるでその状況を楽しんでいるかのように、薄く笑みを浮かべて、そう問い掛けた。そんな彼の姿に、紅龍は苦笑を漏らす。

「大丈夫です。お嬢様は一度お休みになられれば、滅多な事がない限り起きてこられませんので。」
「優秀な護衛殿がそんな事言っちゃって・・知らないぜ?俺は。」
「・・・優秀かどうかは置いとくにして・・確かに、良いというわけではありませんがね。」

そう言うも、ロックオンに誘われるままに紅龍はその唇を彼の首元へと押し付ける。その白い肌に朱を刻む為に。





 保守派の筆頭である、マスード・ラフマディ氏をソレスタルビーイングで、保護した事で、保守派と改革派とで二部されていたアザディスタンの内紛は一時的ではあるにしろ収まりつつある。大部分の目的は達成されたとはいえ、いつ何が起こるか解らないこの世界で、こんな事をしていられる状況では無いというのに、この青年に抗う事が出来なかった自身に、紅龍はため息をつきたくなった。正直、彼には惑わされてばかりだ。

「お嬢様から・・目を離すつもりは無かったんですが・・」
「ん・・・何、俺のせいかよ?此処に連れ込んだのは、紅龍さん・・だろ?」

軽く口付けを交わし、互いの身体に触れ合いながら、紅龍から紡がれた言葉にロックオンは心外だとでもいいたげに、眉を寄せる。近場の部屋へと連れ込まれ、雪崩れ込むようにして自身を押し倒したのは他ならぬ紅龍だ。

「そう・・ですが・・」

途中で言葉を切ってしまった紅龍を、ロックオンは訝しげに見つめた。いささか困ったように、紅龍は視線を自分から外す。まるで自身の目から逃げるように。そんな彼の様子にすぐに合点がいった。

「あー・・俺があんたにちょっかいかけたから、・・って言いたいのか?」

確かに、始め勤務中の彼に仕掛けたのは自分だった。その行為に、意図が無かったと言えば嘘になる。しかし、たんなる戯れにするつもりだったそれは、紅龍にとってはそれだけではすまされなくなってしまったようだ。それを頭で理解した途端、ニヤリとした笑みをロックオンは浮かべ、紅龍をからかうように、反応し始めていた彼の下腹部へと、自身の身体を擦り寄せた。

「っ・・」
「確かに、これは俺のせい・・かもな。やっぱ、まずかったか。」
「そう思うのなら・・煽るような事は止めて頂きたいのですが。」
「冗談。第一もう無理だろ?」
「・・・。」

紅龍の反応が全てを物語っている。二人の身体は常より温度を上げ、更なる快楽を相手に求めていた。この高ぶった熱は簡単には引きそうに無い。全ての熱を吐き出し終えるまでは。音の無い静寂が二人を包む。
ロックオンの手が紅龍の髪へと伸び、後ろで纏められていたものを解くと、ハラリと長い黒髪が紅龍自身の肩へと落ちる。それに合わせて、彼の手がロックオンの上着へと伸び、忍び込ませたそれが素肌を辿った。
衣が擦れ合う音が耳をかすめ、自然と二人の唇は重なり合う。しかし、口づけ交わしながら、ロックオンは妙な気分に陥った。ただどうしようもなく人の温もりを肌に感じたくて、目の前にいる男にそれを求める。
自分が何故そんなにも、目の前の男を求めている理由にすら気付かぬまま。








広がる炎、積まれた瓦礫の山。人の皮膚が焼けた臭いを嗅ぎながら、目の前に広がった光景を、幼かったロックオンはただ見ている事しか出来なかった。人は脆い。ただその頭に標準を合わせて、指先に少し力を加えるだけでその命を奪えてしまう。それは自身が人を殺せる道具を持ち初めてから解った事だ。あの時、唯一頭で理解出来たのは、自分だけを残して両親の身体が目の前で跡形も無く吹っ飛び、ただの肉片と化した事実だけだった。後からそれがテロリスト達による無殺別犯行だったと言う事を知った。頭にあの光景がちらついて、離れない。自分の全てを奪った白い砲火。






「つっ・・」

思わずロックオンの口から、声が漏れる。それは、紅龍の愛撫によって出たものでは無かった。

(・・嫌な事思いだしたな。)

気付くと、指先が痙攣したように震えている。あれから何年もの月日が流れた。翻弄される戦火の中で、生きて行く為には、何でもやった。人を殺す事も覚えた。例えそれが自身の本意で無かったとしても。ソレスタルビーイングに入ってからは、ガンダムでの武力介入による戦闘のみであり、それを通して、結果的には殺してしまう事があったかもしれない。だとしても、ガンダムの中では、他人の命を奪われる瞬間のそれはそこからは見えない。機体による殺傷は、直接この手を血で染めるよりは、ましだった。だが数時間前、ロックオンはこの手で人を殺した。作戦遂行の為とはいえ、とっさにライフルを持ち、その命を奪ってしまった事に、その時に感じたのは不快感だった。衰えていなかった自身の射撃の腕にすら嫌悪を感じる程に。それでも常に離さずに、機体に積んであるライフルは、戦闘の時には、たとえ使わなくとも、傍に無いと落ち着かないからだ。染み付いた過去の残骸は、こんな所まで自身を蝕んでいる。この妙な感覚が離れないのは。そのせいなのかもしれない。

「・・・どうしました?」

素肌に舌を這わせていた紅龍が、ロックオンの胸元に埋めていた顔を上げ、どこか様子のおかしい彼へと、声をかける。困惑を含んだ声の紅龍に、我に返ったロックオンは自嘲じみた笑みを向けた。

「いや・・ただ、」

ロックオンはいささか緩慢な動きで、紅龍を自分の方へと引き寄せて、彼の肩に顔を埋める。常のロックオンらしくない、か細い声をその口から漏らした。

「ただ・・俺、あんたを利用してる気がしてな。」

古傷は久しぶりに触れた過去の産物に、ざわざわと疼いていた。化膿したかのように熱を持って、どんどんその体温を上げるそれは、あの時、自分だけでは抑えようが無かった。そこへ、王留美の警護の為に、まだ起きていた紅龍を見かけ、その手を伸ばしてしまったのである。

「軽蔑するか?」

それならそれで別に良いと、自分自身を傷つけるような言動に、紅龍は眉を寄せる。自分はそんな事を思っていたわけでは無い。それどころか、こんな風に触れ合える事が喜びと感じてすらいるのに。

「いえ。」

当然、首を横に振り、きっぱりと紅龍は言い切った。

「・・・そうか。」

なら、良いんだけどよ。その紅龍の返答にロックオンは一瞬目を見張って、それからほのかに頬を染め笑った彼に、紅龍は目を細める。常はガンダムマイスターのリーダーとして、上手く他のマイスター達の柁を取っている姿や、先程まで自身を翻弄していた彼からは想像がつかない子供のようなそれは、彼の本質を垣間見たような気がした。





・・・・・・








「紅龍さん。」

床に散らばった服を集め、身支度を整えていると、先程まで行為に及んでいたベットから、けだるげにその身を起こしたロックオンが、自身の名を呼ぶ。その声に反応して、おはようございますと声をかけると、彼もおはようと言って笑みを浮かべた。

「貴方はまだ眠っていて下さい。幸い、本日の任務はまだ上から・・・」
「一つ聞いておきたいんだけどよ・・・」

上から届いてないと、紅龍が言葉を言い終わる前に、ロックオンの言葉がその先を制す。

「俺を抱いたのは同情だよな?」

皮肉とすら取れる笑みを浮かべて、問うロックオンに、紅龍はとっさに言葉を返す事が出来なかった。ピタリと身支度していた手を止めて、彼を凝視する。彼が思っているような、同情という感情ではけっして無い。けれど、自身の持つその答が、彼の求めているものでは無いと解っているから、言えないのだ。彼が望むように同情だと、言えたら良かった。けれど、自身の感情に逆らってまで、嘘は付けない。

「あんた・・俺の名前、一回も呼んで無いだろう?やってる最中どころか、初めて会った時から今までも・・な。」

自身が彼の名を呼ばない理由。彼は悪い方向にそれを取っているようだった。いや、都合の良いと言った方が良いだろうか。

「だから・・つっ・・ん?」

やり切れないその感情。紅龍の身体は思わず行動していた。彼の傍へと歩を進め、強引にその顎を上に向かせて、唇を重ねる。合わせた唇は、甘い。けれど、どこか苦しい気分になった。

「・・ん・・何だよ?いきな・・」
「勘違いしないでください。」

そっと唇を少し離して、彼の顎に手をかけたまま、すぐにまたその唇が触れ合うくらいの近距離で紅龍は口を開く。互いにその視線をそらさず、見つめ合ったまま。

「私は、貴方をコードネームで呼ぶつもりは全く無いんです。」
「紅龍・・さん?」
「ただ・・それだけです。」

再び、軽く唇を触れ合わせ、チュっと音をたてながらその唇を離し、彼を解放すると、その後紅龍は何も言わず、身支度を整え終えると、その部屋から出て行く。その場に残されたロックオンは、先ほど一瞬見せた愛しげに自身を見つめる紅龍の表情に、その顔を苦痛にゆがめた。そして現実から逃げるように顔をふせ、目をきつく閉じる。そうしなければ、泣いてしまいそうだった。

「まじ・・かよ。」

同情だと言ってくれたのなら、どんなに楽だったろうか。コードネームで呼ぶつもりは無い。確かに紅龍はそう言った。それは本名しか呼びたくないと言ったも同然だ。その事に気付かなければ、自分はこんな想いしなくてすんだというのに。

「無理だぜ。紅龍さん。」

片目を掌で被う。うずくまったその体制で、ロックオンは声低く、そう呟いた。目を閉じて、頭に過ぎった白い白いその世界。目の前には、幼かった自分と、血を流しながら横たわった無惨な両親の姿。



−俺は、まだあの頃から抜け出せ無い。−











あの後、部屋から出ていった紅龍は、思わず取っていた自身の行動を後悔していた。あれではまるで子供だ。彼は、普段大人のように振る舞い、そんな自分を上手く隠しているというのに。大部分の大人に部類される人は、大人の仮面を被る事が出来る歳になったに過ぎない。誰もが、子供のような己を隠し持っているものなのだ。自分も、勿論彼も。






「貴方が、私が起きる前に起こしに来ないなんて、珍しい事もあるのね。」
「申し訳ありませんお嬢様。」

常より遅れて、彼女の部屋のドアをノックをする。中から領承の声が聞こえ、中へと入ると、既に彼女は身支度を整えた後だった。

「まだ、上からの指示は無くてよ。私はこの後、行かなければならない所があるけれど。」
「お供いたします。」
「えぇ・・・それより紅龍。」
「何でしょう?」

彼女の声に、紅龍は事務的に返答する。しかし、次の彼女の言葉に、僅かに動揺した。

「何かありまして?」
「・・・いえ。何も。」
「そう。なら良いけれど。」

彼女の鋭さに、内心恐々としながらも、平静を保った紅龍は、そう返答する。そんな紅龍に疑たがわし気な表情を向けるも、留美は何事も無かったかのように、そう言った。








一歩を踏み出す勇気は自分に無く、微妙な距離を保ってしまったその関係は、胸内にわだかまりを残したまま、あの時の最後の口づけを、夢のように頭の中で繰り返す。

(好きだぜ紅龍さん。)

その夢にまた夢を見ながら・・












END












あきゅろす。
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