#ドロニル
最近あの人の所に行く回数が減っている。ソレスタルビーイングが本格的に武力介入を行うようになってから、ロックオンは気軽にあの男の元へは行けなくなってしまった。またあの男も、国連大使である故か、最近は各国との外交を行う為に、あっちこっち飛び周っている。
正直それはしょうがない事なのだと思う。自分達の立場を考えれば、逢瀬の機会が減るのも当然であるし、何よりも世間に公に出来るような関係でもない。
互いが互いに各々の役割を果たさなければならないし、身体の関係は持っているものの、そうやって相手を縛るような関係という訳では無いのだ。
俺達はそんなんじゃない。
けれど一瞬でも、ほんの僅かでも。
あの男の素肌が恋しいと思ってしまっている自分は、なんというか、やばいんじゃないかと思う。
何故だとか、どうしてだとか、そんな考えは止めた。現にロックオン自身、彼を少しでも恋しいと思ってしまっているのだから認めざるを得ない。
この歳にもなって、こんな感情を覚えるだなんて夢にも思わなかった。
女々しくて、女々しくて、吐き気がする。
この感情を抱いてしまった自分を嫌悪する。
イライラとした感情が、収まる事はなく、ロックオンは普段は絶対に手を出したりはしない、けれど先程買ってしまった煙草が入った箱へとその手を伸ばし、一本取り出す。それを口元へと持っていき、火をつけ、肺へと循環した煙を、その口からフゥーと吐き出した。
煙草に手を出したのは、何年ぶりだろうか。ガンダムマイスターの候補となってから、身体への悪影響を及ぼさない為に、それらの害になるもの一切止めた。
酒だけは止める事は出来なかったが、それでも時々嗜む程で、常にガンダムマイスターとなる為の努力を自身に強いてきた。
そのお陰で今、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして、目標に狙いを定め、戦場をガンダムと共に闘っている。その道に間違いは無かった筈だ。それなのに・・
(俺はいつ、こんな風になっちまったんだ?)
ハハッと乾いた笑みをその口元に浮かべ、ロックオンは眼を自身の掌で覆う。
けれど涙は出てこなかった。泣き方なんてとうの昔に忘れてしまった。
ガンダムマイスターとしての自分が、崩れてしまいそうだった。
ロックオンの頭にあの日のあの男の残像が横切る。
(ロックオン・・・)
いっそ繊細とも言うべき、彼の長い指が自身の頬に触れ、口付けを落とす。
初めて会ったあの時のアレハンドロからは想像もしえない程、それは優しいものだった。
−私の元に・・・来るか?−
何故そんな事を言う、何故そんな顔をして、俺を見る。
貴方は、あんたは、違うだろう?
俺とあんたはそんなんじゃないだろう?
「例えそれがあんたの望みだったとしても−」
それだけはきけない。きいてはいけない。
そうなれば、全てが崩れてしまう。
過去の自分も、今の自分も、これからの自分も。
「俺は・・・俺はガンダムマイスターだ。」
いっそ、子供のように泣いてしまえたのなら。
こんな・・
こんなにも・
(ニール。)
やめてくれ。
頼むから。
あんたは、あんただけは俺という存在を壊さないでくれ。
弱いニール・ディランディーの自分を引き出してくれるな。
ロックオンは既に短くなっていた煙草を灰皿へと押し付け、バサリと上着を羽織り、今までいたホテルの部屋から外へと出る。
ミッションまで、あと残り一時間。
端末で時間を確認し、マイスター達と落ち合う事になっている地点へとロックオンはその足を向けた。
(狙い撃ってやる。)
それが今の自身−
ロックオン・ストラトスなのだから。
終
お題配布元
確かに恋だった
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