#ドロニル
知る必要等無い。知れば、知るだけ、それは傷を広げるというのならば、知らない方が良い。そう、思った。
マイスター達との合流時間まで残り一時間。目覚めた際に、その事をベットから横目で確認したロックオンは、チッと舌打ちをすると、床に広がる昨晩脱がされたシャツと黒のスーツを拾いあげ、それを身につける。しくじったなとロックオンは心中で呟いた。こんなに眠るつもりなどなかったのだが、どうやら常の自分らしくなく、寝過ごしてしまったようだ。
「早いね。もう行ってしまうのかい?」
ロックオンは、先程まで包まっていたベットからかけられた声に、身支度をしていた手を止め、そちらへと顔を向ける。
「というより、遅刻ですよ。まったく、どうしてくれるんです?」
眉間に皺を刻み、ロックオンはアレハンドロへと皮肉気に言葉を紡ぐ。むしろ、この男が自分に強いた行為を考えれば、これくらいは言わせて貰わなければ、割に合わない。
「私のせいだと?」
「腰、すっげー痛いんですけど?」
「それはすまないね。加減したつもりなんだが。」
悪びれもなく、微笑みながら謝罪する態度は今に始まった事では無い。所詮この男は、自身の欲を開放するために俺を抱いているに過ぎない。女性ではおそらく、この人にとっては面倒事にしかならないのだろう。だからこそ、妊娠等の心配事が無い男で、逆らえる立場に無い俺みたいなやつが、都合の良い相手という訳だ。しかし女も抱けると言っていたから、つまりバイになるのだろう。相手は俺では無くても良い筈なのに、しょっちゅう呼び出され、こうやって、世間に知られては困るような行為を俺に強いる。俺の気持ち等無視して。
「それとも、もっと優しくされたかったかい?そう、恋人のように。」
いつの間にか、ロックオンの背後へと近づいていたアレハンドロは後ろからロックオンの顎へと指を沿え、耳元に唇を近づけると、そう甘く囁く。
「冗談。離して下さい。」
「だろうね。残念だ。」
パッと手を解き、降参だとでも言うように、両手をあげる。何故この人はこんなにも自身に絡むのだろうか。これ以上踏み込まれて、困るのは自身の癖に。
「君なら恋人扱いしても良いと思っているのだがね。」
「なら俺のこれが恋愛感情ですと言ったら、恋人同士になってくれると言う訳だ。」
「なってくれるのかい?私は大歓迎だよ。」
「本当に貴方はふざけた人ですね。そんなの無理な癖に。」
「さてね、どうかな?」
読み取れない。何を考えているのかが、その浮かべる笑みに隠されたものが、なんだかとても恐ろしく思えた。
「もう行きます。」
「あぁ、行ってきたまえ。他のマイスター達をこれ以上待たせてはリーダーとしての君の信用に関わるよ?」
「ご忠告どうも。」
別れを告げ、バタンとアレハンドロの寝室の扉を閉めると、ロックオンはその部屋を後にする。そして、本日の任務の為の合流場所へと急ぐのであった。
胸に刺さった一本の刺、心に浸蝕するこの感情を、何と呼ぶかなんて、俺には知る必要も無い。
終
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確かに恋だった
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