/Gsd(n) 特別(拍手イザ+カガ) 前に進むしか無い女が一人いる。 立ち止まる事も出来ない。 後ろを振り返る事も許されない。 それこそ世界が彼女に求めたもの。 自分達を守り、自分達を幸福に。 その為に何かしろ。 この世界の平和は貴方にかかっている。 女の小さな肩にかかるものとしては、とてつもなく大きいその楔は、女を縛り、自由をほとんど与えない。 俺にはそれが、あいつの自己犠牲的な上で成り立っているようで、はっきりいって気にくわないのだ。 「・・・貴様、何日目だ?」 「あぁ・・えっと、四日?」 停戦後、身分上あいつと仕事を一緒にする事はよくあった。一月に二回程のペースでプラントとオーブを行き来し、あいつの下で雑務を行う。 今日、あいつのとこに訪れたのもその為だった。 それなのに、常の執務室の扉を開けた瞬間、目にしたのは、目の下を真っ黒にし、今にも倒れるんじゃないかって程の、それはひどい様。 そして冒頭の台詞となる。 「はっきり言っていいか?」 「・・なんだ?」 「貴様・・・馬鹿だろう。」 「仮にも国家元首に向かって、馬鹿は無いだろう。馬鹿は。」 そう言い返したカガリに、常の眉間の皺を更に増やし、イザークは呆れたように溜息を吐いた。 正直、この女のこういう姿を見ると、どうにも頭が痛くなる。 「馬鹿だから馬鹿だと言っている。自己管理が出来ないようでは、国のトップなど務まんわ。」 「だが、無理をしなきゃいけない時だってある。」 「貴様の場合は、度が過ぎるのだ。いっそ代表などやめてしまえ。」 「お前・・・来て早々、容赦無いな。」 「貴様の欠点を言ってやっているのだ。むしろ感謝して欲しいくらいだな。」 そう悪口を叩きながらイザークは、手に持っていた資料を彼女へと差し出した。 「三日前に起きた過激派によるテロ未遂事件の報告書、途上国への援助金詳細書類、この前頼まれた例のリストだ。解りやすく纏めてあるから、後で目を通せ。」 「・・すまない。ありがとう。」 カガリはそれを受けとると、イザークへむけていた目線を直ぐに書類の方へと移す。 それにピクリと、反応したイザークは、書類を持っている方の彼女の腕を、すばやく掴んだ。 当然、カガリは何事かと目線を再びイザークへと戻す。 「おい・・イザーク。」 「貴様・・何を聞いていた?今じゃない。後だと言っている。」 「だが、今確認しておいた方が良いじゃないか。後々楽だし、お前だってさっさと仕事は片付けたいだろ?」 「いいから、つべこべ言わず俺の言う事をきけ!」 「お前なぁ・・・いったいなっ・・!?」 何がしたいんだと、カガリが言い返す前に、その身体はフワリと宙に浮く。 ひょいと、荷物のようにイザークはカガリを肩に担ぎ、ツカツカと常備されている仮眠用ベットの方へと大股で向かうと、カガリをそこへ放り投げた。 「ったぁ・・・お前・・いきなり何す・・」 「寝ろ。」 直ぐに起き上がろうしたカガリの肩を掴み、イザークはそれを制す。しかし彼の横暴さに、カガリも黙ってはいなかった。 「まだやる事がある。寝るわけにはいかない。」 「そうやって、無理をして倒れたりでもしてみろ。後ほど迷惑を被るのは俺や周りなんだ。だから大人しく寝ろ。」 「それは・・そうだが・だが例の件も残ってるし・・」 「貴様、意地を張るにも程があるぞ。」 「それ・・お前に言われたくないぞ。」 何時もこうだ。 カガリは決して、自身が立ち止まる事を良しとしない。 その身を無自覚に傷つける。 でもだからこそ、無理矢理にでもあいつを止める事が出来る奴が傍に必要なのだ。 だから俺は遠慮したりはしない。 「いいから・・寝ろ。」 自身の掌を彼女の金色の髪に差し入れ、軽く撫でる。その時のカガリに対すイザークの態度は、先程のものとは打って変わり、優しかった。そしてその瞳は、カガリを真っ正面から射抜く。毒気を抜かれたカガリは、諦めたように溜息をついた。 「・・一時間だ。一時間たったら必ず起こせ。」 「解っている。」 カガリはイザークに促され、漸く横たわると数分もたたない内に、その意識を手放した。規則正しい寝息がその口から漏れるのを聴いて、イザークはそっと、息を漏らす。 余程疲れていたのだろう。 「・・・馬鹿が。」 こんなになるまでに、世界の為に働いて、自分の事は二の次で、それこそ馬鹿だと思う。自身が幸せになれないのであれば、国とて幸せになど出来るはずが無いというのに。 けれど、そんながむしゃらに、自分ではなく誰かの為に行動する彼女がイザークは好きだった。 だからこそ、彼女の下で働く事も全く苦痛に感じる事も無かったのだ。 以前のナチュラルを心底嫌っていた自分では、到底無理だっただろう。 ナチュラルへの嫌悪感が無くなったのも、カガリに会ってからだ。今の自分がいるのは彼女のお陰なのだ。 いつの間にかイザークにとって、カガリは他の女とは別の存在になっていた。 カガリの寝息を聞きながら、イザークはそんな自分に呆れ気味に微笑んだ。 「ゆっくり休め。」 せめてその身が少しでも 楽になるまで・・・ 終了 |