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小ネタ
優柔不断と楽天家 その後
「夏紀、パスタのソース何がいい?」

備えつけの小さな台所で昼食の準備をする昌朋は、麺を茹でつつポテトサラダに使う茹でたジャガイモを潰していた。

「なんでもいい」

そんな昌朋の手際をリビングで見ていた夏紀は、パスタにかけるソースなど心底どうでもよさそうにしながら、クッションを枕に眠そうにあくびをしていた。

「じゃあミートソースにするぞ」
「うん、よろしく。粉チーズいっぱいかけといて」
「はいはい、注文多い奴だな」

半笑いになりながらも、昌朋は手際よく食事の準備を進めていく。

つい十数時間前、激しく身を重ねたのが嘘のように、いつもと変わらない休日の時間が過ぎようとしていた。

しかし、そのひと時をインターフォンの呼び出し音が切り裂いた。音に驚いて体を起こす夏紀とは対照的に、昌朋は潰したジャガイモへマヨネーズを投入しながら、落ち着いた様子で扉へ目を向けて、夏紀へ頼みごとをした。

「なあ、もしかしたら荷物届いたのかもしんないし、ちょっと夏紀出てくれる?」
「えー、荷物って何? まさかまた変な玩具とか下着?」
「秘密。そんなことより早く行って、不在票入れられちゃうじゃん」

昌朋に急かされ渋々立ち上がった夏紀は、二度目のインターフォンが鳴り響く中、玄関の扉を開けた。

「こんにちは、お忙しいところ申し訳ありません。私E化粧品の者なのですが、少々お時間よろしいですか?」

扉を開けた途端、すかさず玄関の中へ乗り込んできたのは、スーツ姿のセールスマンらしき男だった。その男は戸惑う夏紀に構うことなく、自己紹介を早々と済ませて名刺を夏紀へ押しつけた。

「け、化粧品? そういうのは別に……」
「まあそうおっしゃらず、最近ではメンズ用の化粧品というのも多くなっているんですよ。今回はいくつかサンプルをご用意してきましたので、ぜひお試しになってください」

男は呪文のようにつらつらと化粧品の解説をしながら、サンプルを次々に並べていく。それに対して夏紀は何度も断りを入れようとした。しかし、そのたびに饒舌な男に言いくるめられ、ついに夏紀の方が折れてしまった。

「ではまずこちらのベースとなる化粧下地から試してみましょうか。失礼しますね」

男は夏紀の手を取り、化粧下地のテスターを塗ろうとする。内心不快に思う夏紀だが、また何か言ったところでこの強引な男が意にも介さないことは分かっているので、仕方なく自分の手の甲に化粧下地が塗られていくのを見ていた。

男は化粧下地の説明を長々としながら、他の化粧品へと手を伸ばす。しかし、それを試す前に部屋の奥から昌朋が姿を現した。

「お兄さん誰?」
「あ、失礼しております、私E化粧品の者です」
「化粧品? 悪いけど俺そういうの別に必要ないんだよね」
「そう言われず、一度試されてみてはいかがでしょうか? こちらの方も大変ご満足されていますよ」
「俺には困ってるようにしか見えないけどな。化粧品なんて買うつもりないからさっさと出て行ってくれ」

昌朋はそう言って夏紀の手を引き後ろへ下がらせると、男にきっぱり断りを入れ、強引に家から押し出した。

「はぁ、しつこいセールスだったな。夏紀もドア開ける時は覗き穴見てからにしないと。それにしてもホント断れない奴だな」
「ごめん、昌朋」
「気にすんなよ。そういうとこが可愛いんだからさ」
「か、可愛い?」
「さっ、一緒に飯の準備しようぜ!」

慌てる夏紀の肩を抱き、昌朋は食事の準備の続きをするべく、足取り軽く奥の部屋へと戻る。

キッチンからは食欲をそそるミートソースの香りが漂っていた。

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